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Press Release

窒化タンタルからなる赤色透明な酸素生成光電極を開発

―世界トップレベルの太陽光エネルギー変換効率5.5%を達成―
2019年1月25日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
人工光合成化学プロセス技術研究組合

NEDOと人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)は、東京大学とともに、窒化タンタル(Ta3N5)光触媒を用いて、太陽光によって水を高効率に分解できる赤色透明な酸素生成光電極の開発に成功、水の分解反応による水素/酸素製造で世界トップレベルの太陽光エネルギー変換効率5.5%を達成しました。これは開発した酸素生成光電極が赤色透明であり、水分解用のタンデムセルを構成することで得られた成果です。今回開発した酸素生成光電極は、より波長の長い光を水分解に利用できる水素生成光電極との組み合せに適しています。今後、光電極のさらなる高性能化および水分解用タンデムセルの構造最適化を進め、2021年度末までに目標とする太陽光エネルギー変換効率10%の達成を目指します。

  • 開発した窒化タンタル光触媒からなる酸素生成光電極
    図1 開発した窒化タンタル(Ta3N5)光触媒からなる赤色透明な酸素生成光電極

1.概要

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、太陽光のエネルギーを利用して水から生成した水素と工場などから排出されるCO2から、プラスチック原料などの基幹化学品(C2~C4オレフィン※1)を製造するプロセスを実現するための基盤技術開発※2に取り組んでいます。太陽光は光触媒によって、エネルギー源として有効に活用することができます。そのため、光触媒のエネルギー変換効率の向上が重要な課題になります。

今回、NEDOと人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)※3は、国立大学法人東京大学とともに、太陽光によって水を分解する窒化タンタル光触媒を用いて、世界トップレベルの太陽光エネルギー変換効率※45.5%を達成しました。これは、酸素生成用光触媒の窒化タンタルからなる赤色透明な酸素生成光電極※5を開発し、水素生成光電極と組み合わせた水分解用のタンデムセル※6を構築することで得られた成果です。今回の成果は、エネルギー変換技術としての人工光合成の有用性を実証したものです。

なお、今回の研究成果は、2018年12月12日(水)(欧州標準時)に欧州科学誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン速報版で公開されました。

  • 人工光合成プロジェクトの概要

(1)光触媒開発 太陽光エネルギーを利用した水分解で水素と酸素を製造する光触媒およびモジュールの開発
(2)分離膜開発 発生した水素と酸素の混合気体から水素を分離する分離膜およびモジュールの開発
(3)合成触媒開発 水から製造する水素と発電所や工場などから排出する二酸化炭素を原料としてC2~C4オレフィンを目的別に合成する触媒およびプロセス技術の開発

図2 人工光合成プロジェクトの概要(今回の成果は(1)光触媒開発のテーマ)

2.成果内容

酸素生成用光触媒である窒化タンタル光触媒は、400nmから600nmまでの可視光を吸収し、光触媒的に水を分解できる材料として知られています。これまでに、窒化タンタルをベースとした酸素生成用光触媒の研究開発が、国内外で精力的に進められてきました。今回、この窒化タンタルを成膜する導電性基板として、透明で低抵抗、耐熱性に優れたGaN/Al2O3を適用するとともに、スパッタリング※7による成膜条件を最適化し、温和な条件での窒化により赤色透明な酸素生成光電極を開発することで、高効率に水から酸素を生成することに成功しました。この酸素生成光電極を電解液に浸して疑似太陽光※8を照射し、外部電源から電位を印加すると光電極上で水の酸化反応が起こり、酸素が生成されます。水の酸化反応は理論的には1.23V vs. RHE※9よりも高い電位で起こりますが、光のエネルギーを利用することで、より低い電位から水の酸化反応が起こり、酸素を生成することができます。今回開発の酸素生成光電極は、0.6V vs. RHE近辺から水の酸化反応が起こり、1.23V vs. RHEで6.3mA cm-2の光電流を発生し、疑似太陽光の照射下における窒化タンタル光触媒の理論最大電流値の50%に迫る性能を達成しました(図3)。

  • 窒化タンタル光触媒をベースとする酸素生成光電極の電流‐電位曲線
    図3 開発した窒化タンタル光触媒をベースとする酸素生成光電極の電流‐電位曲線

この酸素生成光電極は赤色透明という大きな特徴を持っており、600nmよりも長波長の光を背面に透過させることができます。透過吸収スペクトル測定の結果から、600nmよりも長波長側の光透過率は70%以上であることがわかりました。これにより、600nmよりも長波長側の光を水分解に利用できる水素生成光電極と組み合わせることで、2段型の水分解用タンデムセルの1段目(前面)として利用することが可能になります。

今回開発した酸素生成光電極を1段目(前面)に、CuInSe2(1100nmまで光吸収可能)をベースとした水素生成光電極を2段目(背面)に、それぞれ配置した2段型のタンデムセルを作製し、疑似太陽光の照射下における水の全分解反応を検討しました(図4)。その結果、太陽光を用いた水の分解反応による水素/酸素製造において、照射開始15分後で5.5%の太陽光エネルギー変換効率を維持することができました(図5)。この変換効率の値は、窒化タンタル光触媒として世界トップレベルです。

  • 窒化タンタル光触媒をベースとする酸素生成光電極と、CuInSe2をベースとする水素生成光電極とからなるタンデムセルの模式図
    図4 開発した窒化タンタル光触媒をベースとする酸素生成光電極と、
    CuInSe2をベースとする水素生成光電極とからなるタンデムセル(2段型)の模式図
  • タンデムセルに疑似太陽光を照射したときの太陽光エネルギー変換効率
    図5 今回開発したタンデムセルに疑似太陽光を照射したときの太陽光エネルギー変換効率

3.今後の予定

今後、NEDOとARPChemは、今回開発した赤色透明な酸素生成光電極の反応効率と長期安定性をさらに向上させるとともに、実用化に向けた水素製造デバイスおよびモジュール構造の最適化を進める事により、2021年度末までに目標とする太陽光エネルギー変換効率10%の達成を目指します。

【注釈】

※1 C2~C4オレフィン
二重結合を1つ含む炭化水素化合物で、炭素数2から4のもの。C2はエチレン、C3はプロピレン、C4はブテンと呼ばれ、プラスチック原料などとなる基幹化学品として用いられる。
※2 基幹化学品を製造するプロセスを実現するための基盤技術開発

事業名:二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発(人工光合成プロジェクト)

事業期間:2012~2021年度(2012~2013年度は経済産業省、2014年度からはNEDOのプロジェクトとして実施中)

事業内容:人工光合成とは、太陽光エネルギーを用いて水や二酸化炭素などの低エネルギー物質を水素や有機化合物などの高エネルギー物質に変換する技術で、人工光合成の基盤技術開発に取り組んでいます。

※3 人工光合成化学プロセス技術研究組合(Japan Technological Research Association of Artificial Photosynthetic Chemical Process;ARPChem)

参画機関:国際石油開発帝石(株)、TOTO(株)、(一財)ファインセラミックスセンター、富士フイルム(株)、
三井化学(株)、三菱ケミカル(株)(五十音順)
※4 太陽光エネルギー変換効率
入射した太陽光エネルギーに対する水素生成によって蓄えられた化学エネルギーの割合。
※5 光電極
水分解用の光触媒を導電性基板上に接合・固定化したもの。
※6 タンデムセル
2種類の光電極を組み合わせる際に、1段目に比較的短波長の光を吸収して残りの長波長の光を透過させるものと、2段目に透過光を吸収できるものを重ね合わせた2段型構造を持つ水分解用セルのこと。
※7 スパッタリング
基板に膜を付ける方法の一つ。真空中で不活性ガスを導入、基板と膜材料の間に電圧をかけることで不活性ガス原子がイオン化し、イオンが高速移動して膜材料に衝突、膜材料の粒子を弾き飛ばす。この弾き飛ばされた膜材料粒子が基板に付着し、膜が形成される。
※8 疑似太陽光
強度と波長の関係が自然太陽光と同等となるように設計された光。天候や時間による変動がないため、再現性良く光触媒の太陽光照射下での特性を評価することが可能。
※9 RHE(reversible hydrogen electrode)
可逆水素電極。電極電位の測定における電位の基準であり、水溶液のpHによらず水素が発生する電位を基準(0V)としている。水を水素と酸素に分解するために必要な理論電解電圧は1.23Vであるため、酸素が発生する電位は1.23V vs. RHEと表すことができる。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 材料・ナノテクノロジー部 担当:小川、佐川 TEL:044-520-5220

人工光合成化学プロセス技術研究組合 担当:西見 TEL:03-5809-2314

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:佐藤、坂本、藤本 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp