本文へジャンプ

AIを活用した児童虐待対応支援システムを開発
―6月に三重県で実証を開始し、システムの実用性を検証―

2019年5月28日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
国立研究開発法人産業技術総合研究所

NEDO事業において、産業技術総合研究所は、児童相談所の職員向けに、日本初となる人工知能(AI)を活用した児童虐待対応支援システムを開発しました。さらに、本システムを三重県の児童相談所に導入し、実証実験を6月下旬から開始します。

実証を通じて、虐待危険度などの総合的な予測をAIが行うことによる職員の業務負担軽減や虐待対応の迅速化などの効果を検証します。これにより質の高い虐待対応支援に貢献する技術開発とプラットフォーム構築にも取り組み、本システムの実用化につなげます。

児童虐待対応支援システムの画面イメージ
図1 児童虐待対応支援システムの画面イメージ

1.概要

児童虐待は増加の一途をたどっており、厚生労働省の調べ※1によると、その相談対応件数は1999年から2017年までで約12倍に増加しています。一方、子供らからの相談対応や家庭調査を行う児童福祉司※2の数は約2.6倍増にとどまり、児童福祉の現場で働く職員たちの業務量は非常に逼迫した状況にあります。

また相次ぐ虐待死の報道でも指摘されているように、現状、児童福祉機関の間の情報共有は、電話やメール、ファックスなどを使って属人的に行われているのが実態であるため、増え続ける虐待に対応するためには、児童福祉機関の業務プロセスの改善、特に職員同士の情報共有や連携の効率化が求められています。

そこで、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業※3において、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は、児童相談所向けに業務支援アプリ「AiCAN(Assistance of intelligence for Child Abuse and Neglect)」および確率モデリング技術※4などのデータ分析用人工知能(AI)を組み合わせた虐待対応業務支援システムを開発しました。これにより、日本で初めて※5AIによる虐待危険度などの総合的な予測を実現しました。

そして今般、産総研は、本システムを三重県内の児童相談所に導入し、効果を検証する実証実験を6月下旬から開始します。

実証を通じて、虐待危険度などの総合的な予測をAIが行うことによる職員の業務負担軽減や虐待対応の迅速化などの効果を検証します。これにより質の高い虐待対応支援に貢献する技術開発とプラットフォーム構築にも取り組み、本システムの実用化につなげます。

2.児童虐待対応支援システム

(1)システムの仕組み

タブレット端末から「AiCAN」に、児童の基本情報やアセスメントデータを入力すると、クラウドネットワーク上に保存されます。それらのデータを基に、統計解析ソフトウェア「R」※6および産総研がNEDOの事業の一環で開発した確率モデリング・シミュレーションモジュール「PLASMA(Probabilistic Latent Structure Modeling API)」が予測やシミュレーションを過去のデータに基づいて行い、虐待の危険度や再発率、一時保護の必要性などの解析結果をリアルタイムに「AiCAN」上に表示します。

また、従来は児童相談所の現場において紙で扱っていた児童の情報や虐待に関する調査記録をデジタル化することにより、業務に過去のデータを活用することが可能となります。

虐待対応支援システムの構成
図2 虐待対応支援システムの構成

(2)AI技術の特徴

虐待相談の対応には極めて慎重な意思決定が必要であり、単なる予測精度の高さだけでなく、予測の根拠などを説明する能力が重要視されます。そのため、本システムでは、予測精度の高い機械学習技術と説明可能性の高い確率モデリング技術を併用しています。

児童相談所で案件を受理した時に、その案件の終結までの対応日数を予測するために、勾配ブースティング※7などの予測精度の高い機械学習アルゴリズムを用いています。また、虐待の危険度の予測は、説明可能性の高い確率モデリングである確率潜在意味分析※8、および、虐待の再発率はベイジアンネットワークによる確率的因果推論※9を用いています。

これらの複数の手法を組み合わせながら、虐待の危険度や再発率、一時保護の必要性を示すことで、現場のニーズにあったAIによる支援を提供します。

3.実証実験の概要

三重県内の2つの児童相談所に本システムを導入し、職員の業務負担軽減や虐待対応の迅速化などの効果を検証します。

AIが提示したシミュレーション結果は、これまでに現場で蓄積した過去の情報に基づくものであり、職員が意思決定する上で有効な判断材料となることが期待されます。その一方で、発生頻度が極端に低い事例や過去に一度も発生していない事例を予測することは困難なため、最終的な意思決定は、人間がAIにはできない経験や最新の動向なども踏まえて行う必要があります。そのため、本研究開発でも「最終的な意思決定は人が行う」という原則を踏襲します。実際の現場の業務フローを踏まえてAIをどのように実装すれば、業務効率化や支援の質の向上などに寄与できるのかを検証することが、今回の実証実験の目的です。

【注釈】

※1 厚生労働省の調べ
厚生労働省資料「平成29年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>」
※2 児童福祉司
子供や保護者などからの相談に応じることはもちろん、必要に応じて、家庭の調査や社会診断を行い、子供・保護者間の関係調整(家族療法など)を行うことがあります。
参考:厚生労働省資料「児童福祉司の概要等について」
※3 事業
事業名:次世代人工知能・ロボット中核技術開発/次世代人工知能技術分野/人間と相互理解できる
次世代人工知能技術の研究開発
実施期間:2015年度~2019年度
※4 確率モデリング技術
データから、そのデータによく適合する確率分布を推定する技術。推定した結果の確率分布を用いて、一部の変数の値が観測された場合の他の変数の値を予測することなどができる。代表的な手法の一つに、ベイジアンネットワークがある。
※5 日本で初めて
対応日数の予測や、再発度の予測、業務量管理といった児童相談所の現場のニーズに、より総合的に対応した支援のための技術開発は、本プロジェクトが初めて。
※6 統計解析ソフトウェア「R」
無償のオープンソースソフトで、統計解析やデータ解析機能に優れるほか、機械学習ツールとしても広く使われている。
※7 勾配ブースティング
データから変数間の関係を学習する機械学習技術の一つ。簡単な予測器を、予測の残差を減らすように組み合わせる(ブースティング)ことで、予測性能を向上させる。様々な予測問題に対して良い性能を示している。
※8 確率潜在意味分析
データの所属するクラスタの情報を潜在変数とする確率分布モデルによって、データから潜在的なクラスタ構造を推定する確率モデリング手法の一つ。推定されたクラスタ構造を解釈することを通じて、学習結果を説明しやすいという性質を持つ。
※9 ベイジアンネットワークによる確率的因果推論
ベイジアンネットワークのモデル構築が完了すると、各項目の条件付き確率の事後確率最大推定という手法により、確率的な因果構造がシミュレーションできるようになる。確率的な因果であって、各ケースにおける因果構造とは異なるが、目の前のケースで事実かどうか不確実な状況であっても、過去の蓄積された事例の傾向や特徴を元に、目の前のケースにどのような対応をしたら、どのような結果になりうるのかを確率的に推定することができる。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO ロボット・AI部 担当:渡邊、鈴木 TEL:044-520-5242
産総研 人工知能研究センター 担当:高岡、本村 TEL:03-3599-8920

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:藤本、坂本、佐藤 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

関連ページ