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プラスチック補強用アセチル化リグノCNFの生分解性を確認
―環境配慮型の高強度プラスチック複合材料の開発に期待―

2019年8月8日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
理事長 石塚博昭

NEDOと産業技術総合研究所、京都大学は、プラスチック補強用機能性ナノ繊維として用いられるアセチル化リグノセルロースナノファイバー(CNF)において良好な生分解性を確認しました。

今回の成果により、生分解性プラスチックをアセチル化リグノCNFで補強することによる、高強度の生分解性プラスチック複合材料の開発につながることが期待されます。

また、本技術の活用により、生分解性プラスチックの高強度化が実現し、用途が広がることで、最近注目されている海洋プラスチックごみなどの環境問題の解決にも貢献することが期待されます。

1.概要

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、木質バイオマスを原料とし、鋼鉄の1/5の軽さで5倍以上の強度を備えるセルロースナノファイバー(CNF)の技術開発に関するプロジェクト※1を推進しています。このプロジェクトでは、樹脂への分散性や耐熱性に優れた高機能リグノCNF※2の一貫製造プロセスや、リグノCNFを用いた自動車部品などの部材化に関する技術開発を行っています。

今般、本事業において、NEDO、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)、国立大学法人京都大学は、プラスチック補強用機能性ナノ繊維として用いられるアセチル化リグノCNFが、高い生分解性※3を持つことを確認しました。

今回の成果は、生分解性プラスチック※4をアセチル化リグノCNFで補強することによる、高強度の生分解性プラスチック複合材料の開発につながることが期待されます。一般に強度が不足するとされる生分解性プラスチックの高強度化が実現できれば、用途が拡大でき、近年注目されている海洋プラスチックごみやマイクロプラスチックの問題解決にも貢献すると考えられます。

なお、この成果は、2019年6月3日から7日までに幕張メッセ国際会議場(千葉県千葉市美浜区)で開催された、ナノセルロース分野では世界最大の国際会議「2019 International Conference on Nanotechnology for Renewable Materials (TAPPI Nano 2019)」で発表されました。

  • アセチル化リグノCNFで補強された生分解性プラスチックのイメージの図
    図1 アセチル化リグノCNFで補強された生分解性プラスチックのイメージ

2.今回の成果

本プロジェクトにおいて、京都大学が各種プラスチックをアセチル化リグノCNFで補強したリグノCNF複合材料の製造プロセス(京都プロセス※5)の開発を行い、産総研がCNFの安全性評価手法の開発を進めてきました。

産総研が京都大学との連携において安全性評価を実施しているアセチル化リグノCNF(図2)は、アセチル化処理(CNF表面の水酸基の一部をアセチル基に置換する)により、アセチル化処理を行っていないCNFに比べて疎水性が高くなっているため、生分解性の著しい低下が懸念されていました。今回、アセチル化リグノCNFについて、化学物質審査規制法で定められている生分解性試験※6を実施した結果、生分解度は89±4%という値が得られました。これは、被験物質を「良分解性」と判定する際の基準である60%よりも十分大きな値でした。このことから、アセチル化リグノCNFは、一般環境中において容易に微生物による分解を受けるものであり、環境に優しい高機能性材料であるといえます。

なお、プラスチックと複合化したアセチル化リグノCNFは、プラスチック中で直接に生分解を受けて補強性が低下することはありませんが、生分解性プラスチックに適用した場合、プラスチックが環境中で生分解するのに伴い、アセチル化リグノCNFも生分解を受けることになると考えています。

  • アセチル化リグノCNFの写真
    図2 アセチル化リグノCNF

3.今後の予定

アセチル化リグノCNFのアセチル基の置換度を変化させた場合の海水中の生分解性について評価を進めます。海洋プラスチック問題の解決に貢献するとともに、バイオマス由来材料の一層の利用促進を目指します。

【注釈】

※1 プロジェクト
:非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロ
セスの開発/セルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技術開発/CNF安全性評価手法
の開発
事業期間:2013~2019年度
※2 リグノCNF
CNFはセルロースナノファイバーの略語であり、パルプなどの植物繊維をナノレベルまで解すことで得られる、径が3~100nmのセルロース繊維のことです。軽量、高強度、低線熱膨張など優れた特性を示すことから、プラスチックの補強用材料として期待されています。リグノCNFは、京都プロセスにおいて得られるCNF強化樹脂複合材料中に均一分散している、表面にリグニンを残したCNFです。
※3 生分解性
物質が土壌中や水中など自然環境中に存在する微生物によって分解される性質であることです。
※4 生分解性プラスチック
土壌中や水中など自然環境中に存在する微生物によって分解されるプラスチックです。最終的には二酸化炭素と水になります。
※5 京都プロセス
原料である木材や竹などの木質バイオマスからリグノパルプを製造し、それを化学処理(アセチル化処理)後に、樹脂と溶融混練して、高耐熱CNF強化樹脂材料を連続的に製造するプロセスのことです。アセチル化リグノパルプが溶融混練時にナノ化し樹脂中に均一に分散することで、高性能のプラスチック材料を効率的に製造できます。
※6 化学物質審査規制法で定められている生分解性試験
一般環境での生分解性を評価するために用いられている試験方法(OECD TG301C:Modified MITI TEST(I))です。この試験法は、活性汚泥(30mg/L)と対象試料(100mg/L)を入れた25±1℃の培地における28日間の生物学的酸素要求量(BOD)を測定するものです。
京都プロセスで得られるリグノCNF複合材料から再びアセチル化リグノCNFを単離することは困難なため、本試験用の材料として、アセチル化パルプをアルミナビーズによる攪拌で解繊したアセチル化リグノCNFを使用します。このときのアセチル基の置換度(DS)は、プラスチックとの十分な混合と強度補強を行うことが可能な値(DS=0.69)としています。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 材料・ナノテクノロジー部 担当:沖、山本 TEL:044-520-5220­ E-mail:ligno_cnf@ml.nedo.go.jp

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:中里、坂本、佐藤 TEL:044-520-5151­ E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

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