本文へジャンプ

米国初、レドックスフロー電池の電力卸売市場での運用を開始
―蓄電池の複合的な運用による経済性向上手法を検証―

2018年12月18日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
住友電気工業株式会社

NEDOと住友電気工業(株)は、長寿命かつ大型化に適した定置用蓄電池「レドックスフロー電池(RF電池)」を米国カリフォルニア州の電力卸売市場に接続し、最も収益が見込める運用手法を検証するための実証運転を開始します。

本実証では運用上、充放電の深度や回数に制約がないというRF電池の特長を生かし、電力卸売市場が求める周波数調整などの調整力や、エネルギー取引による供給力を最適に組み合わせて提供し、RF電池の経済的価値を高める手法を検証していきます。

なお本実証は、米国内の電力卸売市場でRF電池を運用する初めての事例となります。

電力卸売市場に参加して運用を開始するRF電池
図1 電力卸売市場に参加して運用を開始するRF電池

1.概要

米国カリフォルニア州は、2045年までに州内の電力の100%を温室効果ガスが排出しないエネルギーで賄うとする州法SB100を成立させるなど、再生可能エネルギー導入に関して高い目標を掲げています。こうした中、太陽光発電(PV)の増加による朝夕の急激な需要変動や電力品質低下の問題が顕在化しつつあり、この変動調整が急務となっています。そこで、州法AB2514※1において蓄電設備の導入義務を電力会社に課すとともに、蓄電池で適正な収入を得られるような電力卸売市場の新制度設計を段階的に行っています。

このような背景のもと、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2015年9月に米国カリフォルニア州の経済促進知事室(GO-Biz)と基本協定書(MOU)を締結し、住友電気工業(株)を委託先として、同州サンディエゴでレドックスフロー電池(RF電池)※2の普及展開に向けた実証事業を進めてきました。

本プロジェクト※3は3段階に分けて実証運転を進めており、2017年3月から実施した第1段階では、現地の大手電力会社であるSan Diego Gas and Electric社(SDG&E社)の協力を得て、NEDOと住友電気工業(株)は、変電所内に設置した2MW/8MWhのRF電池を配電網にて運用し、電圧調整・余剰電力対応などの複合的運転を行いながら蓄電池の基礎特性や信頼性の評価を完了しました。また、SDG&E社と協力して、カリフォルニア州独立系統運用機関(CAISO:California Independent System Operator)の開設する電力卸売市場※4に接続できるよう技術的、事務的な申請作業も並行して進めてきました。

今般、RF電池の接続申請手続きが完了したことにより、本プロジェクトは第2段階としてCAISOが開設する電力卸売市場での取引を開始します。

RF電池としては米国の電力卸売市場へ初参入することとなります。

2.実証事業、第2段階の内容

CAISOはカリフォルニア州の送電網を運用・管理する機関であり、その電力卸売市場においては、再生可能エネルギーの導入拡大によって、周波数調整のような短周期の出力(キロワット:kW)を提供する調整力と同様に、エネルギー供給のタイムシフトのような長時間の電力量(キロワットアワー:kWh)を提供する供給力が求められています。

RF電池は運用上、充放電の深度や回数に制約がないという特長を有しているため、短周期の出力と長時間の電力量のいずれの充放電要求にも適しており、これらの短周期と長時間の変動を同時に出力することにより、多目的かつ柔軟な運用が可能であると期待されています。

第2段階では、RF電池の特長を生かし、周波数調整などのアンシラリーサービス市場※5やエネルギー取引市場などで複数の取引を柔軟に組み合わせ、季節や時間帯に応じて最も収益が見込める運用手法を検証していきます。また、現在制度設計中である蓄電池に適した新メニューにも、いち早く対応する事でさらなる経済性の向上を目指します。このような蓄電池の複合的な運用手法の検証は、世界に先駆けた取り組みとなります。

  • 電力卸売市場へ供給力や調整力を提供する実証運転の概念図
    図2 電力卸売市場へ供給力や調整力を提供する実証運転の概念図

3.今後の予定

第3段階では、配電網と送電網の両方における複合運転を行い、第1、第2段階にて確立した運用手法を有効活用し、さらなるRF電池の経済的価値の向上を目指します。

【注釈】

※1 州法AB2514
2010年9月に制定された米国カリフォルニア州の州法で、電力会社に一定割合の蓄電容量を2024年までに導入完了を義務付ける政策です。
※2 レドックスフロー電池(RF電池)
原理と構造:
RF電池は、電池反応を行うセル、活物質を貯蔵するタンク、活物質を循環させるためのポンプと配管から構成されている蓄電池です。RF電池では出力(kW)部と容量(kWh)部が独立しているため用途に応じた適切な出力/容量設計が可能です。また、充放電反応が電解液中でのイオンの価数変化のみで、電極や活物質の劣化がなく長寿命の大型蓄電池として適しています。住友電気工業(株)は電解液にバナジウムを採用し、業界に先駆けてシステムを開発しました。
  • レドックスフロー電池の原理図
    図3 レドックスフロー電池の原理図
※3 本プロジェクト
事業名:
エネルギー消費の効率化等に資する我が国技術の国際実証事業/米国加州における蓄電池の送電・配電併用運転実証事業(アメリカ合衆国 カリフォルニア州)
事業期間:
2015年度~2020年度
委託先:
住友電気工業(株)
※4 電力卸売市場
CAISOが運用する市場で、前日市場(Day-ahead Market)とリアルタイム市場(Real-time Market)から構成され、入札にて電力を調達する市場です。
※5 アンシラリーサービス市場
電力系統の周波数を維持する義務を負う系統運用機関は、周波数調整用の電源を契約や市場を通じて調達します。市場が必要とする電力を供給するエネルギー市場に対し、同時同量を実現するための調整力や予備力の市場をアンシラリーサービス市場と呼びます。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO スマートコミュニティ部 担当:眞崎、中島 TEL:044-520-5274
住友電気工業(株) 広報部 広報グループ TEL:06-6220-4119

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:坂本、藤本、佐藤 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

関連ページ