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世界初、熱電変換材料の厚さ方向の変換性能を正確に計測する手法を開発
―計測器メーカーが同手法を採用した評価装置を製品化―

2019年3月7日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
理事長 石塚博昭

NEDO事業において、産業技術総合研究所は、熱電変換材料の厚さ方向の熱電変換性能を正確に計測する手法を世界で初めて開発しました。

材料の熱電特性であるゼーベック係数と電気抵抗率について、これまでは材料の面内方向のみの計測に基づいて評価されていましたが、新たに厚さ方向まで計測可能となることにより、有機薄膜をはじめ、面内方向と厚さ方向で特性が異なる材料の熱電変換性能をより正確に評価できます。

また今回の成果をもとに、アドバンス理工(株)が、厚さ方向熱電特性評価装置を開発し、4月に販売を開始します。企業や大学の研究機関への販売を通じて、熱電変換材料の開発が進み、エネルギーハーベスティング(環境発電)の実現や、工場や自動車の排熱などさまざまな分野における熱エネルギーの有効活用による省エネルギー化・CO2排出削減に寄与することが期待されます。

今回の成果をもとに開発された厚さ方向熱電特性評価装置の写真
図1 今回の成果をもとに開発された厚さ方向熱電特性評価装置

1.概要

近年、工場や焼却炉、自動車のエンジンルームなどさまざまな施設、製品から排出される熱エネルギーを有効活用し、再生エネルギーとして回収する技術が注目されています。その中で、熱エネルギーを電気エネルギーに変換できる熱電変換材料による発電が、メンテナンスフリーでクリーンな技術として需要が高まり、研究開発が進んでいます。しかし、導電性高分子やカーボンナノチューブ(CNT)を含む薄膜の熱電変換材料では、厚さ(垂直)方向と面内(水平)方向で材料の特性が異なる構造異方性を持ちますが、これまでの評価技術では材料の面内方向の性能しか測定できず、材料の熱電変換効率を正確に評価できませんでした。

そこで、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクト※1において、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は、熱電変換材料の厚さ方向の熱電変換性能を正確に計測する手法を世界で初めて開発しました。

材料の熱電特性であるゼーベック係数※2と電気抵抗率について、新たに厚さ方向まで計測可能となることにより、有機薄膜をはじめ、面内方向と厚さ方向で特性が異なる材料の熱電変換性能をより正確に評価できます。

また今回の成果をもとに、アドバンス理工株式会社が、厚さ方向熱電特性評価装置を開発し、4月に販売を開始します。企業や大学の研究機関への販売を通じて、熱電変換材料の開発が進み、エネルギーハーベスティング(環境発電)※3の実現や、工場や自動車の排熱などさまざまな分野における熱エネルギーの有効活用による省エネルギー化、CO2排出削減に寄与することが期待されます。

2.今回の成果

電気抵抗率の評価には、測定用電極(プローブ)と材料の間の電気抵抗の影響を取り除くため、従来は4端子法※4という4つのプローブを取り付ける測定方法が採用されており、図2のように、試料の両端に電流導入用プローブ(図中では電極ブロック)、試料の表面に電圧測定プローブ(図中では熱電対)をそれぞれ取り付けていました。しかし、熱電対を取り付けるために電極ブロック間に距離を設ける必要があり、薄い膜状試料の厚さ方向の評価は不可能でした。例えば、図2の拡大部分に示すような層状のような内部構造に特徴のある試料(異方性材料)では、電流方向が一方向に限定されるため、その直交方向の特性を明らかにすることはできません。

そこで産総研は、図3のように、膜の表と裏にそれぞれプローブ(図中ではドーナツ型電極ブロックと熱電対)を取り付けることで、電極ブロック間への電圧測定用プローブ(図中では熱電対)の設置を不要としました。これにより、電極ブロック間距離を狭められ、膜状試料を簡単にセットできます。また、その片面の2つの電極間の距離(図3の上部ドーナツ型電極ブロックと熱電対との隙間の距離 d )を短くすることで、電流分布が4端子法に近づきます。この電極間距離をゼロにすることはできませんが、その距離を変えながら複数点測定し、得られた計測値から距離がゼロの近似値を算出することで、厚さ方向の電気抵抗率を評価できるようになりました。厚さ方向の特性評価が可能となったため、図3の拡大部分に示すような層状構造の膜試料の層に直交する特性も明らかにできます。

また、ゼーベック係数を評価するためには温度差が必要ですが、薄膜のような材料では、厚さ方向で十分な距離が取れずに温度差が得られず、ゼーベック係数を測定できません。新手法では、膜の表と裏の温度制御を同時に行い、表と裏の温度を、ある温度(試料中心温度)を中心に上下に等分させます(例えば、表を1度上げる場合には裏を1度下げる)。この制御によって、表と裏の間(厚さ方向)に十分な温度差を生じさせつつ、試料内の熱分布を均一にできるため、わずか数µmの厚さのゼーベック係数を評価できるようになりました。

新手法により、厚さ方向の評価が可能となったことで、薄膜材料の熱電特性評価が可能となるだけでなく、従来の面内方向の評価手法と組み合わせることにより、熱電変換材料の熱電異方性の評価も可能となりました。新手法は今後、厚さ方向の電気抵抗率やゼーベック係数の測定法に関する国際標準化への展開も期待できます。

  • 既存の測定法(4端子法)のイメージ図
    図2 既存の測定法(4端子法)
  • 新しい測定法のイメージ図
    図3 新しい測定法

アドバンス理工(株)が新手法を採用して開発した厚さ方向熱電特性評価装置の詳細は、以下を参照。

【注釈】

※1 NEDOプロジェクト
事業名:未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発
事業期間:2013年度~2022年度(2013年度~2014年度は経済産業省にて実施)
※2 ゼーベック係数
温度差1度あたりで発生する熱起電力。ゼーベック効果(物質の両端に温度差をつけると起電力が生じる現象)で発生する熱起電力を測定するため、このように命名された。
※3 エネルギーハーベスティング(環境発電)
周りの環境の中に薄く広く存在するエネルギーから電力を取り出すこと。
※4 4端子法
電気抵抗(率)を正確に測定する方法。電流を流す端子と電圧を計測する端子を別にすることにより、端子の持つ抵抗や接触抵抗の影響を除く事ができ、2端子間のみの測定に比べて、より正確に計測できる。

3.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 省エネルギー部 担当:近藤 TEL:044-520-5281­

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:藤本、佐藤、坂本 TEL:044-520-5151­ E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

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