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世界初、3,300V級シリコンIGBTのスイッチング制御を5Vゲート駆動で実証
―AIなど先端デジタル技術とパワーエレクトロニクスの融合に期待―

2019年5月28日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
理事長 石塚博昭

NEDOプロジェクトにおいて、東京大学生産技術研究所を中心とする研究グループは、3,300V級シリコン絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)のスイッチング制御を、従来比3分の1となる5Vのゲート駆動電圧で実証することに世界で初めて成功しました。

本研究の成果によって、ゲート制御回路に論理回路を組み込むことが可能となります。これにより、人工知能(AI)などの先端デジタル技術とパワーエレクトロニクスを融合し、より高度なパワー制御を行うことで電気自動車や産業機器などの低消費電力化が期待されます。

直径3インチ基板上に試作した絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の写真
図 直径3インチ基板上に試作した絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)

1.概要

半導体パワートランジスタは、パワーエレクトニクスにおけるキーデバイスであり、電力変換に用いられるスイッチングトランジスタ※1です。特に絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor,IGBT)※2は、高い耐圧と、MOSゲート※3による高速性、バイポーラ動作※4による大電流特性から家電製品や電気自動車、鉄道、産業機器などに広く用いられており、最も重要な半導体パワートランジスタの一つです。一般にこれらのシリコンIGBTは性能限界に近づいているとされていますが、IGBTのパワーMOSトランジスタ部分を比例縮小し、ゲート電圧も同比率で低減する「IGBTスケーリング」※5により電子注入促進(Injection Enhancement,IE)効果※6が高められ、電流密度が向上する事がシミュレーションで確認されています。

このような背景の中、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト※7で、国立大学法人東京大学生産技術研究所は、北九州市環境エレクトロニクス研究所、学校法人明治大学、三菱電機株式会社、東芝デバイス&ストレージ株式会社、国立大学法人東京工業大学、国立大学法人九州大学、国立大学法人九州工業大学と共同で、スケーリング係数k※8がk=3(長さ寸法が3分の1)のシリコンIGBTを設計・試作し、3,300V級のシリコンIGBTのスイッチング制御を従来の15Vから5Vという低いゲート駆動電圧で実証することに世界で初めて成功しました。また、通常の寸法(k=1)で試作したシリコンIGBTと比較して、電流密度の向上(オン損失の低減)を達成し、ターンオフ時のスイッチング損失を35%低減することができました。

一方、従来のゲート制御回路※9は、高いゲート電圧で駆動されていたため高耐圧ICプロセスを用いて大きな面積のアナログベースの回路で構成されていました。本研究のシリコンIGBTでは、制御電圧が5Vに低減できることから、ゲート駆動に必要な電力を約10分の1に低減できます。また、ゲート制御回路には標準的なCMOSプロセスを用いることができ、さまざまなデジタル回路の資産を集積化することができるため、人工知能(AI)などの先端デジタル技術とパワーエレクトロニクスが融合し、より高度なパワー制御が可能となりさらなる低消費電力化が期待されます。

なお、本研究成果は、2019年5月19日から23日まで上海(中国)で開催されたIEEE ISPSD(International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs)で発表されました。

  • 論文タイトル:“3300V Scaled IGBTs Driven by 5V Gate Voltage”

2.今回の成果

スケーリング係数k=3でオン電流が5A級のシリコンIGBTを設計・試作した結果、シリコンIGBTのさらな る進化の可能性を示す以下の成果を得ました。

(1)3,300V級シリコンIGBTで従来比3分の1となる5Vゲート駆動のスイッチングに成功
IGBTは大電流をオン・オフ(スイッチング)させ、電圧は数千Vに達します。スイッチングを制御するゲート制御回路の電圧は、15Vが用いられています。パワーエレクトロニクスの分野では,数千Vのスイッチングを5Vで行うことはノイズの観点などから困難であると考えられてきましたが、今回5V制御に成功しました。
(2)スケーリング係数k=1と比較して、電流密度が向上し、ターンオフ時のスイッチング損失を35%低減
スイッチング用パワートランジスタの重要な特性として、単位面積当たりに流れる電流密度とスイッチング時の電力損失があります。今回の試作で、「IGBTスケーリング」の概念に基づき、いわゆる電子注入促進効果(IE効果)の高まりによるIGBTの電流密度の向上と、スイッチング損失の低減を確認できました。
(3)ゲート駆動電圧が5Vに低電圧化することで、デジタルCMOSとの融合が可能
IGBTを動作させるために必要なゲート駆動電圧は今まで15Vであったため、高耐圧ICプロセスを用いて大きな面積のアナログベースの回路で構成されていました。今回ゲート駆動電圧が5Vに低減できたことから、ゲート駆動に必要な電力は約10分の1に減少します。また、ゲート制御回路に標準的なCMOSプロセスを用いることができ、小型化が可能となります。

【注釈】

※1 スイッチングトランジスタ
トランジスタに流れる電流を流したり(オン)、止めたり(オフ)する機能を持つトランジスタです。
※2 絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor,IGBT)
入力部はMOSFET構造、出力部はバイポーラ構造を有します。高い耐圧を得るため非常に長いベース領域(数十~数百μm)を持ちますが、電子と正孔双方のキャリアをベース領域に注入・蓄積することで伝導度変調が起こり高電流を導通できる特徴を持ちます。またMOSゲート部によりキャリアの注入を制御するため比較的高速なスイッチング特性を有します。
※3 MOSゲート
MOS(Metal-Oxide-Semiconductor)構造による電界でのスイッチング制御で、大電流を高速にスイッチングすることに適しています。
※4 バイポーラ動作
半導体のpn接合を利用したバイポーラ・トランジスタ(Bipolar Transistor)の動作であり、大電流を流すことができます。
※5 IGBTスケーリング
IGBTのMOSトランジスタの配列ピッチは縮小せず、MOS駆動部のみの長さ寸法を一定の割合で縮小する事です。寸法を縮小するとゲート制御電圧の低減と単位面積あたりに流れる電流密度の増加が期待できます。
※6 電子注入促進(Injection Enhancement,IE)効果
IGBTの正孔電流の流路を狭めることで、逆に電子電流の割合が増える効果で、現在のIGBTはこの効果を応用して設計されています。
※7 NEDOプロジェクト
低炭素社会を実現する次世代パワーエレクトロニクスプロジェクト/新世代Siパワーデバイス技術開発/新世代Si-IGBTと応用基本技術の研究開発
事業期間:
2014年~2019年
※8 スケーリング係数k
「IBGTスケーリング」の長さ寸法の縮小率を表す係数で、1/kに寸法が縮小されます。
※9 ゲート制御回路
IGBTの入力(ゲート)電圧を駆動する回路です。大電流をスイッチングするIGBTではトランジスタをオンさせるためのゲート容量も大きくなるため、ゲート容量を高速に充放電してスイッチングする回路が必要となります。現在、駆動電圧は15Vでありアナログベースの回路で構成されています。

3.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO IoT推進部 担当:野村、高橋、池田 TEL:044-520-5211­

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:坂本、藤本、佐藤 TEL:044-520-5151­ E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

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