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小型で軽量な自然冷却型有機熱電モジュールを開発
―100℃~120℃の低温熱源による電力での無線通信を世界で初めて実証―

2020年1月21日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
国立研究開発法人産業技術総合研究所

NEDOは、比較的低温で利用が難しい200℃以下の未利用熱を有効利用できる有機熱電変換材料の開発とモジュール化の技術開発事業に取り組んでおり、今般、同事業の中で産業技術総合研究所(産総研)は、有機熱電材料で作るモジュールの熱と電気の抵抗を最適化し、自然冷却が可能な有機熱電モジュールを世界で初めて開発しました。100℃から120℃の低温熱源に設置するだけで、測定データなどを無線通信するための十分な電力が得られることを実証しました。

さまざまな場所の未利用の低温熱源から電力を得ることで、IoT社会に欠かせない無線センサーネットワーク機器への実装が期待されます。

開発した自然冷却型有機熱電モジュールと無線通信モニタリング画面
図1 開発した自然冷却型有機熱電モジュールと無線通信モニタリング画面

1.概要

さまざまな情報をリアルタイムで相互通信するIoT※1は、運輸業における自動運転、農林水産業における現場管理、製造業における設備管理、人の健康管理などを可能とする技術で、今後、加速的に実用化が進むと期待されています。また、その市場規模は2020年で8兆円を超える(IDC Japan調べ)と予測されています。IoTには、無線通信技術が必須ですが、通信だけが無線でも電源が有線であっては意味がないため自立型電源の開発も必要です。

有機熱電材料※2は、200℃を超える高温では使用できませんが、それ以下の温度での利用では、非常にフレキシブルな熱電材料であり、加えて安価な原料と簡易なプロセスで素子が作製できるため、製造コストの低さと製造時の省エネルギー効果からも有望な材料です。

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、比較的低温で利用が難しい200℃以下の未利用熱を有効利用できる有機熱電材料の開発とモジュール化の技術開発事業※3に取り組んでおり、今般、同事業の中で国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は、電気抵抗と熱抵抗を最適化した構造の有機熱電モジュールを製作しました。本開発では、導電性高分子として知られる「PEDOT/PSS※4」を基本材料にしたモジュールの導電部材(金属)の熱伝導が大きいことがモジュール全体の特性を制限していることに着目して、導電部材の電気抵抗および部材間の接触電気抵抗をできるだけ増やさずに熱抵抗を可能な限り高める新たな設計を行いました。その結果、この有機熱電モジュールを100℃から120℃の低温熱源に設置するだけで、測定データなどの無線通信に十分な電力が得られることをスマートフォン用無線温度・湿度センサーを用いて実証しました。自然冷却で無線通信用電源として動作できる有機熱電モジュールは世界初です。

熱電発電モジュールでは、発電出力が温度差の2乗に比例するため、温度差を生み出す工夫が必要でしたが、そのために強制冷却などでエネルギーを消費したり冷却材を使用することは、小型軽量化や省エネルギー化に逆行し、現実的ではありません。今回開発した有機熱電モジュールは、放熱フィンなどを使わない自然冷却でも無線センサー用電源として利用できるため、小型・軽量で製造コストが低い上に、冷却のためのコストとエネルギーが不要です。熱さえあればすぐに使えるため実用範囲が大きく広がり、さまざまな場所の未利用の低温熱源から電力を得られるので、IoT社会にかかせない無線センサーネットワーク機器などの電源として搭載することによりIoT機器の実用化が加速的に進むことが期待されます。

2.今回の成果

有機熱電材料はp型※5のみ安定して得られるため、ユニレグ型※6のモジュールを作製する必要があります。そのためには、有機熱電材料の高温部分と低温部分を金属製の導電部材でつなぐ必要がありますが、この導電部材が熱伝導性も良いため温度差を作りにくくしていることを発見しました。そこで、電気抵抗を増やさずに熱抵抗をどこまで増やせるかに着目して検討を重ねました。

(1)積層モジュールの開発

小さな面積に多くの素子が集まるように重ねることで、出力密度を大きくしました。図2に、その内部構造を示します。厚さ50µmの有機熱電材料のPEDOT/PSS膜100枚と厚さ5µmの導電部材のニッケル(Ni)箔99枚を、接合部分を除いて厚さ5µmの絶縁性高分子膜(ポリイミドフィルム)で挟んだ積層型のモジュールを作製して、その特性改善を進めました。

  • 開発したモジュールの内部構造
    図2 開発したモジュールの内部構造

(2)無線センサー用電源としての利用を実証

導電部材の電気抵抗と部材間の接触電気抵抗をできるだけ大きくせずに、熱抵抗をいかに大きくするかをシミュレーションして設計しました(熱抵抗を大きくするために単純に熱を流れにくくすると、電気も流れにくくなり電気抵抗も大きくなります)。

図3に、設計の指針を模式的に示します。熱源が低温だと高温熱源に比べてモジュール両端に温度差を作ることがより難しくなるので、モジュール化した際の熱伝導をいかに抑えるかが重要です。そこで、PEDOT/PSSとNiの接触電気抵抗を大きくせずにNiの熱伝導を小さくする新たな設計を行いました。PEDOT/PSSとNiとの電気抵抗を大きくしないためには、図3のaはできるだけ大きくしたいのですが、aが大きいほど熱伝導も大きくなり温度差は小さくなります。また、Ni自体の電気抵抗を大きくしないために図3のbはできるだけ大きくしたいのですが、bが大きいほど熱伝導も大きくなります。そこで、aとbについて、電気抵抗と熱抵抗のシミュレーションをしたところ、それぞれに適切な値があることが分かりました。さらに、熱源とモジュールの接触を工夫し、モジュールに伝わる熱効率を向上させて、熱源温度120℃で熱電モジュールに50℃の温度差を作ることで、約60µW/cm2の出力密度が得られました。この電力で無線送信機器を駆動させ、温度と湿度のデータを送信し、スマートフォンでモニタリングすることができました。これまで有機熱電材料の実証試験においては、自然冷却ではモジュールに十分な温度差をつけられず、放熱フィンやヒートシンクをモジュールに取り付けて強制的に冷却していましたが、エネルギー(電気)を消費するため好ましくありません。今回の成果により、世界で初めて、熱源に設置するだけの自然冷却で有機熱電モジュールの実用的使用が可能となりました。

  • 電気抵抗と熱抵抗の最適化設計指針
    図3 電気抵抗と熱抵抗の最適化設計指針

3.今後の予定

NEDOと産総研は、有機熱電材料のさらなる特性向上とモジュール構造の改良を行い、より低温の熱源で使用できる有機熱電モジュールの設計開発を進めていきます。


なお、産総研は、本研究成果について2020年1月29日から31日まで東京ビックサイト(東京都江東区)で開催される「nano tech 2020 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」の産総研ブースでデモンストレーションを行います。また、2020年1月26日から31日まで米国フロリダ州で開催される国際会議「44th International Conference and Expo on Advanced Ceramics and Composites(ICACC 2020)」で本成果について発表します。

【注釈】

※1 IoT
Internet of Thingsの略です。物と物とが相互に通信することにより人の介在なしで情報のやり取りをすることです。
※2 有機熱電材料
温度差を電気に直接変換できる熱電材料のうち、有機材料を用いたものです。熱電変換では、高温に耐えうる無機の熱電材料の研究開発が長くなされてきましたが、排熱再利用技術の高度化にともない、残された未利用熱が200℃以下と低温度化してきたことから、有機熱電材料の研究も盛んになってきています。また、熱電材料やモジュールでは、熱起電力の大きいことと電気伝導度の大きいことが発電には有利で、熱伝導率が小さいことが温度差を大きくとれて有利となります。
※3 技術開発事業
未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発
プロジェクトリーダー:小原春彦(産総研 企画本部 副本部長)
事業概要:未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発を行います。
未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発
事業期間:2013年度から2022年度(うち2013年度から2014年度は経済産業省にて実施)
※4 PEDOT/PSS
Poly(3,4-ethylenedioxythiophene)/Poly(styrenesulfonate)の略です。導電性高分子の中では、1000S/cmの高い電気伝導度を持つことで知られています。
※5 p型
半導体のうち、電荷を運ぶキャリアが正孔(ホール)であるものをp型、またキャリアが電子であるものをn型と呼びます。
※6 ユニレグ型
p型かn型か、どちらか一方だけの材料を導電性部材で直列につなげたものを、ユニレグ(uni-leg)型と呼びます。一方、p型とn型を接続して高温端と低温端にそれぞれp-n接合をつくるモジュールをπ(パイ)型と呼びます。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 省エネルギー部 担当:近藤、永田 TEL:044-520-5281­
産総研 ナノ材料研究部門 担当:向田 TEL:029-861-9393­

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:坂本、中里、佐藤 TEL:044-520-5151­ E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

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