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熱機能材料の熱伝導率を手軽で高精度に計算するソフトウエアを開発
―ミクロ領域の熱物性を把握、高性能な熱機能材料の研究開発の促進に期待―

2020年1月27日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合
国立大学法人東京大学

NEDOは、エネルギーの供給過程で排出される未利用熱の革新的活用技術に関する研究開発に取り組んでおり、今般、未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合、東京大学とともに、多結晶体などの複雑なナノ構造を持つさまざまな熱機能材料の熱伝導率を手軽で高精度に予測・熱伝導現象を再現するソフトウエア「Simulator for Phonon Transport in Arbitrary Nano-Structure(P-TRANS)」を開発しました。

開発した「P-TRANS」は、これまで東京大学が開発したモンテカルロ・レイトレーシング法とグラフィカルユーザインタフェース(GUI)を融合したもので、学術界や産業界などの研究現場での普及を目標に使いやすさを重視したソフトウエアです。本ソフトウエアの活用により、複雑な形状や内部構造を考慮したミクロな領域の熱物性を把握できるため、高性能な熱機能材料の研究開発が促進されることが期待できます。今後、「P-TRANS」の機能拡張と活用を進め、効率的な材料・デバイスの開発と抜本的な性能向上を図り、熱の3Rによる徹底した省エネルギーの実現を目指します。

なお、東京大学は、このソフトウエアをウェブサイトで本日公開、無償でダウンロードできます。

また、NEDOは、今回開発された「P-TRANS」を、1月29日から1月31日まで東京ビッグサイトで開催される「ENEX 2020 第44回地球環境とエネルギーの調和展」で展示します。

任意の形状を有するナノ構造の熱伝導率を簡便に計算できるソフトウエア
図1 任意の形状を有するナノ構造の熱伝導率を簡便に計算できるソフトウエア
「Simulator for Phonon Transport in Arbitrary Nano-Structure(P-TRANS)」

1.概要

徹底した省エネルギーのためには、エネルギーの供給過程で有効利用されず捨てられている未利用熱を削減(Reduce)・回収、熱として蓄え再利用(Reuse)し、さらにほかのエネルギー形態に変換(Recycle)して利用するための「熱の3R」に向けた熱機能材料やデバイスを開発し、社会実装することが必要です。「ムーンライト計画※1」以降、研究開発と実用化が進められているこれらの材料やデバイスの性能を抜本的に高めるためには、材料の微視的な熱輸送解析(熱伝導率の予測・熱伝導現象の再現)によるナノスケールの熱の設計とミクロな領域の熱物性の理解、さらにそれらに基づく材料設計と熱制御が不可欠です。特に、主要な熱キャリアである固体中の格子熱(フォノン※2)の伝導性能は最も重要な熱機能の一つであり、伝熱や断熱の効率はもとより、蓄熱における放熱・再生速度や、熱電変換の性能を左右する温度勾配を決定します。一方で、電子物性や光物性に比べてミクロな領域の熱物性の理解が立ち遅れており、定量的な熱伝導率計算はもとより、フォノンの微視的な輸送情報も正確に評価することができませんでした。

そのような中、ここ10年程の第一原理計算※3の発展により、単結晶の熱伝導率の計算やフォノンの微視的な輸送解析ができるようになってきましたが、実際に開発される材料の多くは多結晶粒界や細孔などさまざまな構造であるため、複雑な形状や内部構造を考慮しながら熱伝導率を簡単に計算する方法が必要とされます。また、熱機能材料を革新するために広く行われているナノ構造材料の開発においては、ナノ構造を考慮した熱伝導率の計算が必須になります。

このような背景の下、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、エネルギーの供給過程で排出される未利用熱を効果的に削減・再利用・変換利用することを目的に「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発※4」に取り組んでおり、今般、未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)、国立大学法人東京大学(東京大学)とともに、ナノスケール間隔で界面が存在する多結晶体、薄膜、多孔体、ナノワイヤーなどの複雑なナノ構造を持つさまざまな熱機能材料の熱伝導率を手軽で高精度に予測・熱伝導現象を再現できるソフトウエア「Simulator for Phonon Transport in Arbitrary Nano-Structure(P-TRANS)」を開発しました。

開発した「P-TRANS」は、東京大学が開発したモンテカルロ・レイトレーシング法※5と、構造作製ツールや可視化ツールなどのグラフィカルユーザインタフェース(GUI)※6を融合したもので、学術界にとどまらず、産業界での普及を目標に、使いやすさを重視したソフトウエアとなっています。例えば、熱電変換材料の開発では、近年、材料内部にナノ構造を設けることで熱伝導率を低減して性能指数を高めることを狙った研究が盛んですが、本ソフトを用いることにより、ナノ構造化した際の熱伝導率の低減効果を試算できるほか、高熱伝導材料の作製時に生じる多結晶構造の粒界が熱伝導率に及ぼす影響も把握できるため、高性能な熱機能材料の研究開発が促進されることが期待できます。

なお、東京大学は、このソフトウエアを別ウィンドウが開きます ウェブサイトで本日公開しました。本サイトから無償でダウンロードでき、学術界や産業界などの研究者が現場で手軽に使えるソフトウエアとなっています。

また、NEDOは、今回開発した「P-TRANS」を、1月29日から1月31日まで東京ビッグサイトで開催される「ENEX 2020 第44回地球環境とエネルギーの調和展※7」で展示します。

2.今回の成果

(1)ソフトウエア「P-TRANS」を開発

開発した「P-TRANS」は、これまで東京大学が開発してきたモンテカルロ・レイトレーシング法と、構造作製ツールや可視化ツールなどのGUIを融合したもので、学術界にとどまらず、産業界での普及を目標に、使いやすさを重視したソフトウエアです。

また、「P-TRANS」に入力する単結晶のフォノンの輸送物性のデータベースも作成しており、データベースとパッケージで利用できます。

本ソフトウエアで採用しているシミュレーション技術は、これまでに未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発において、ナノ多結晶粒界とナノ細孔を持つシリコン熱電変換材料の熱伝導率の予測やその機構の理解※8に用いられるなど、さまざまな材料開発に役立っています。

(2)ソフトウエア「P-TRANS」の特長

「P-TRANS」は、以下の特長と可能性を持っています。

  • GUIを使い、数値の入力など簡単な操作のみで計算することができます。
  • コンピュータ支援設計(CAD)データの取り込みや、多結晶構造の自動作成などにより、任意の材料形状を簡単に構築できます。
  • 数秒から数分で熱伝導率を計算できます(Matthiessen則※9などと組み合わせることにより、ボルツマン輸送方程式※10をそのまま解く場合と比べ格段に計算時間が短縮)。
  • 熱伝導率だけでなく、フォノン周波数に依存した熱伝導率スペクトルも計算できます。
  • 60種類以上の材料に対応できます(入力に必要な、第一原理計算に基づく単結晶の物性をウェブサイトで提供)。
  • 多結晶体、薄膜、多孔体、ナノワイヤーなど、さまざまな材料をサポート、精度を検証済みです。

詳細は以下の東京大学ウェブサイトを参照してください。

  • 「P-TRANS」の応用事例
    図2 「P-TRANS」の応用事例

3.今後の予定

NEDOは、TherMAT、東京大学とともに、熱電変換材料設計のための電子輸送計算機能の追加など「P-TRANS」の機能拡張を進めるとともに、プロジェクト内外での「P-TRANS」の活用を通じた先端的な熱機能材料やデバイスの設計と微視的な熱輸送現象の理解を進め、効率的な材料・デバイス開発と抜本的な性能向上を推進し、熱の3Rによる徹底した省エネルギーの実現を目指します。

【注釈】

※1 ムーンライト計画
1978年から1993年度までの間で実施された日本の省エネルギー技術研究開発についての長期計画です。
※2 フォノン
振動を量子化した準粒子のことです。熱伝導は、原子や分子の振動を粒子とみなしたフォノンの移動によって主に説明されます。
※3 第一原理計算
計算対象となる物質の各構成元素と結晶構造のみを初期パラメータとして、実験データや経験パラメータを用いることなく行う理論計算方法です。結晶構造の決定や格子力学計算などのシミュレーションに用いられます。
※4 「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」プロジェクト
プロジェクトリーダー:小原春彦氏(産業技術総合研究所 企画本部 副本部長)
事業期間:2013年度から2022年度(うち2013年度から2014年度は経済産業省にて実施)
※5 モンテカルロ・レイトレーシング法
フォノンなどの反射、透過、拡散の発生を乱数で確率的に取り扱い、何度も計算を実行し、近似解を得ることにより事象を予測する方法です。当該手法については、以下の論文を引用してください。
Takuma Hori, Junichiro Shiomi, Chris Dames, “Effective phonon mean free path in polycrystalline nanostructures”, Applied Physics Letters Vol. 106, 171901 (2015).
※6 グラフィカルユーザインタフェース(GUI)
コンピュータグラフィックスとポインティングデバイスなどを用いる、グラフィカルであることを特徴とするユーザインタフェースです。
※7 ENEX 2020 第44回地球環境とエネルギーの調和展
会期:2020年1月29日(水)~1月31日(金) 10時00分~17時00分
場所:東京ビッグサイト(東京国際展示場)NEDOブース小間番号:南1ホール 1S-K03

参照リリース:サイト内リンク「ENEX 2020」出展へ(2020年1月24日)

※8 シリコン熱電変換材料の熱伝導率の予測やその機構の理解
Makoto Kashiwagi, Yuxuan Liao, Shenghong Ju, Asuka Miura, Shota Konishi, Takuma Shiga, Takashi Kodama, and Junichiro Shiomi, “Scalable multi-nanostructured silicon for room-temperature thermoelectrics”, ACS Applied Energy Materials, 2, 7083-7091 (2019).(JST, CRESTの成果)
※9 Matthiessen則
格子の熱振動などによる散乱機構が複数個ある場合、対象とする系の抵抗が個々の散乱機構による抵抗の和になるという経験則をいいます。
※10 ボルツマン輸送方程式
キャリアの輸送現象を表す方程式。キャリアを粒子とし、キャリア間の衝突なども考慮しながら、その位置と速度に関する分布関数の時間変化を計算します。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 省エネルギー部 担当:小笠原、近藤、高橋(伸)、永田 TEL:044-520-5281­
未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合 担当:宇都、箕浦 TEL:03-3592-1284­
東京大学 大学院工学系研究科 担当:塩見、Cheng Shao TEL:03-5841-6283­

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:坂本、中里、佐藤 TEL:044-520-5151­ E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

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