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短パルス・高ピーク出力動作可能な新しいフォトニック結晶レーザーの開発に成功
―超微細加工や高精度光センシング、バイオイメージングなどに応用可能―

2021年3月26日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
国立大学法人京都大学
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構

NEDOが進める「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」において、このたび京都大学は短パルス(数10ピコ秒)かつ高出力(数10~100ワット以上)で動作可能なフォトニック結晶レーザーの開発に成功しました。このレーザーは超微細加工や高精度光センシング、バイオイメージングといった幅広い用途に応用することが可能で、超スマート社会を実現する光源としても期待されます。本研究成果は2021年3月4日に英科学誌『Nature Photonics』のオンライン版に先行掲載されており、2021年4月号(印刷版)で正式に発表される予定です。なお、レーザーの核となるフォトニック結晶構造は、内閣府が実施し量子科学技術研究開発機構が管理法人を務める戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「光・量子を活用したSociety 5.0実現化技術」の成果を活用して開発されました。

1.概要

無人化が進む製造現場において、熱の影響を受けずに多様な物質の超精密加工ができる短パルス・高ピーク出力のレーザー光源は、加工対象に応じて条件を自動かつ精密に最適化するスマート加工を可能にするカギとしてその実現が強く求められています。このレーザー光源は他の用途からのニーズも高く、例えば車の自動運転に代表されるスマートモビリティ分野では目への安全性(アイセーフ)や高分解能な光測距(LiDAR※1)を実現するために、数10ピコ秒※2以下の極めて短いパルス幅を持つ高ピーク出力の光源が不可欠とされています。またバイオ分野においても、高分解イメージングを可能とするには短パルス・高ピーク出力の光源が必須です。特に小型で安価、さらに可搬性や高制御性という特徴も備える半導体レーザーにおける短パルス・高ピークな出力動作は、上記の加工システムやセンシングシステムの大幅な小型化や低コスト化につながる技術として注目されています。

これを踏まえ、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と国立大学法人京都大学は高出力・高ビーム品質(=高輝度)を備え、併せて極めて狭い拡がり角を持つビーム出射が可能な半導体レーザー(フォトニック結晶レーザー※3)の開発を進めてきました。そして今回、デバイス内部に利得領域と吸収領域※4を2次元的に分布させるという新しいコンセプトに基づき、数10ピコ秒以下という短パルスで、数10W~100W(将来的にはキロワット級も可能)の高ピーク出力動作が可能なフォトニック結晶レーザーの開発に成功しました。このレーザーは超微細加工や高精度光センシング、バイオイメージングといった幅広い用途に応用することができ、超スマート社会を実現する光源としても期待されるものです。

本研究成果は2021年3月4日に英科学誌『Nature Photonics』のオンライン版に先行掲載されており、2021年4月号(印刷版)で正式に発表される予定です。なお、本研究は、内閣府が実施し国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構が管理法人を務める戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「光・量子を活用したSociety 5.0実現化技術」、科学研究費補助金(科研費、20H02655)の成果を活用して、NEDOの「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」※5において行われました。

2.今回の成果

本研究では独自のフォトニック結晶レーザー技術を用い、短パルスかつ高ピークな出力動作を同時に実現できる新しいコンセプトを提案し、その開発・実証に成功しました。

フォトニック結晶レーザーの特徴を生かした新しい短パルス・高ピーク出力動作を実現するためのコンセプトとして、図1(a)のように、光の増幅作用を持つ利得領域の周囲に負荷として作用する吸収領域を2次元的に配置したレーザー構造を考えます。フォトニック結晶の形状としては、図1(a)の右図のような二重格子フォトニック結晶構造※6を用い、500µmΦ以上の大面積でも安定して一つの基本モードで動作できるように工夫しています。この構造では、吸収領域を導入することで、レーザー発振が生じにくくなるため、発振が始まるまでに通常より多くのキャリアが利得領域に蓄積されます。そして、発振が生じると、一気に吸収領域の吸収が飽和し、蓄えられていた多くのキャリアが、瞬時にレーザー光に変換され、Qスイッチング※7動作が起こり、短パルスで高ピークな出力動作を安定して得られるようになります。

  • (a)利得と吸収を2次元的に配置した短パルスフォトニック結晶レーザーの模式図、(b)吸収領域の2次元的な配置の例
    図1 (a)利得と吸収を2次元的に配置した短パルスフォトニック結晶レーザーの模式図
    (b)吸収領域の2次元的な配置の例

本コンセプトに基づくフォトニック結晶レーザーにおいては、吸収領域の形状や配置に2次元的な自由度があることが特徴になっています。例えば、吸収領域を図1(b)のようなリング状の形状・配置とすることで、発振の不安定化を引き起こす高次モードに対して光の損失を大きくして発振を防ぎ、一方で、狙った基本モードのみに対しては、Qスイッチング動作が適切に生じるような吸収の大きさに調整することで、基本モードで安定したパルス発振を得ることができます。

なお、本フォトニック結晶レーザーに、電流を連続的(十分に長い時間)に注入すると、Qスイッチング動作が何度も繰り返し起こり、短パルス・高ピーク出力動作が繰り返し得られるようになります。また、電流を数ナノ秒程度の短い時間のみ流すと、短パルス・高ピーク出力を一回のみ得ることも可能となり、電流を流すタイミングをさまざまに変化させることで、望んだタイミングで短パルス・高ピーク出力を出射することも可能になります。

上記のコンセプトに基づき、利得領域と吸収領域を2次元的に配置したフォトニック結晶レーザーの設計と作製を行いました。設計においては、活性層に蓄えられるキャリアにより光が増幅・減衰する効果、大面積デバイスで光が空間的に拡がる効果、フォトニック結晶において光が相互に結合する効果などを全て考慮して、レーザーから生じる光強度の時間変化を解析できる新たな計算手法を確立しました。確立した計算手法をもとに、実際に設計・作製したデバイス構造(図2(a))では、光を増幅する利得領域の直径は400µmΦとしており、その内部に、幅8µmのリング状の吸収領域を均等に二つ配置した構造としました。なお、今回作製したデバイスでは、発振波長を近赤外域の935nmに設定しました。

  • (a)作製した短パルスフォトニック結晶レーザーの裏面電極の模式図、(b)作製したレーザーの光出力の時間変化の測定結果の図
    図2 (a)作製した短パルスフォトニック結晶レーザーの裏面電極の模式図
    (b)作製したレーザーの光出力の時間変化の測定結果

作製したフォトニック結晶レーザー(図2(a))において、電流3Aを注入した際に得られたレーザー光出力の時間変化の測定結果が図2(b)です。パルス幅が35psと極めて狭いパルス発振が、断続的に発生している様子を確認することに成功しました。通常の近赤外半導体レーザーでは、3Aの電流注入で最大でも3W程度のピーク出力しか原理的に得られませんが、開発したレーザーでは、3Aの電流注入で20W級のピーク出力が得られており、利得領域と吸収領域を2次元的に分布させるという新しいコンセプトの優位性を実証することに成功しました。

上記の測定結果を踏まえ、さらなるピーク出力の向上を目指して、フォトニック結晶レーザーの利得領域と吸収領域の設計をさらに深化させました。こうして設計した構造(利得領域と吸収領域の配置構造、図3(a))のデバイスでは、利得領域の直径を1mmΦまで拡大するとともに、リング状の吸収領域の数を三つに増やしており、吸収領域の配置と幅を調整することで、基本モードで安定したパルス発振が得られるように設計しています。さらに、フォトニック結晶の空孔形状についても、直径1mmΦで単一モード発振が得られるように深化させた設計※8を採用しました。設計構造について、直流電流30Aを注入した場合の光出力の時間変化を解析した結果、図3(b)のように、パルス幅40ps、ピーク出力300W級の短パルス・高ピーク出力発振が得られることが明らかとなりました。また、設計したデバイスを、ナノ秒程度の短い時間幅の電流注入により駆動した場合には、ピーク出力300W級の短パルス発振を、任意のタイミングで出射することが可能であることも確認できました。なお、光の増幅を行う活性層の材料や厚さを最適化することで、パルス幅のさらなる短縮(10~20ps未満)や、ピーク出力のさらなる向上(>kW級)の実現も期待されます。

  • (a)数100W級のピーク出力を実現可能な短パルスフォトニック結晶レーザーの設計構造、(b)設計デバイスの光出力の時間変化の計算結果の図
    図3 (a)数100W級のピーク出力を実現可能な短パルスフォトニック結晶レーザーの設計構造
    (b)設計デバイスの光出力の時間変化の計算結果

3.今後の予定

今回開発した短パルス・高ピーク出力フォトニック結晶レーザーのピーク出力のさらなる向上(kW級)の実現に向けて、デバイス構造のさらなる深化を進めるとともに、銅などの高反射金属や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの微細加工応用を見据えて、発光波長の短波長化(青色など)にも取り組む予定です。

【注釈】

※1 光測距(LiDAR): Light Detection and Ranging(LiDAR)
Light Detection and Ranging(LiDAR)は、レーザー光を用いたリモートセンシング技術の一つ。近年、ロボットの自動走行や自動車の自動運転に不可欠な技術の一つとして、注目を集めている。本研究で開発した短パルス・高ピーク出力レーザーは、ToF(Time-of-Flight)方式と呼ばれるパルス状のレーザー光を出射し、それが被検出物にて反射・散乱されて戻ってくるまでの時間差から距離を計測する手法への適用が期待される。その際、アイセーフ、すなわち、人間の目への安全性に十分注意する必要がある。
※2 ピコ秒
1ピコ秒は10-12秒に相当する。光は1秒間に地球7周半分の距離(30万km)を伝搬することができるが、1ピコ秒の間にはわずか0.3ミリメートルしか伝搬することができない。このような極めて短い時間にレーザー光のエネルギーを集中させることで、さまざまな物質を、発熱による溶融を生じさせることなく、高精細に加工することが可能になる。また、上記のような極めて短い光の伝搬長と高いエネルギー密度を利用することで、レーザー光を利用したセンシングの分解能を大幅に向上することができる。
※3 フォトニック結晶レーザー
2次元フォトニック結晶(2次元状に周期的に波長程度の周期的屈折率分布をもつ光ナノ構造)を内蔵した面発光型の半導体レーザー。大面積で安定した定在波状態が形成出来、高出力、高品質なビームが得られるという特徴がある。
※4 利得領域と吸収領域
電流を注入し、光を増幅する領域を利得領域と呼ぶ。一方、電気を流さず、光を吸収する領域を吸収領域と呼ぶ。利得領域、吸収領域のどちらの領域にも、活性層と呼ばれる共通の層が含まれている。利得領域として活用する際には、電気を流すことでこの活性層にキャリア(電子・正孔対)を蓄積することで光の増幅作用を生じさせる。一方、吸収領域として活用する際には電流を流さず、活性層を光を吸収する損失体として用いる。なお、利得領域への十分なキャリアの蓄積によりレーザー発振が開始すると、利得領域で発生したレーザー光が吸収領域に侵入し、吸収領域の活性層においてもそのレーザー光を吸収することでキャリアが発生し急激に吸収が小さくなるようになる。
※5 高輝度・高効率次世代レーザー技術開発
従来にない高輝度(高出力・高ビーム品質)かつ高効率なレーザー技術と、これを用いたレーザー加工技術を開発し、世界に先駆けてものづくり現場へ普及させることを目指している。2016~2020年度までのプロジェクトであり、5つの研究開発項目に取り組んでいる。
サイト内リンク 高輝度・高効率次世代レーザー技術開発/次々世代加工に向けた新規光源・要素技術開発/フォトニック結晶レーザーの短パルス化・短波長化
※6 2重格子フォトニック結晶構造
京都大学プレス発表別ウィンドウが開きます 「新たなフォトニック結晶構造を用いて半導体レーザーの高輝度化に成功 -来たるべき超スマート社会におけるスマート製造やスマートモビリティに貢献-」を参照のこと。
※7 Qスイッチング
レーザーにおいて、短パルス発振を得るための技術の一つ。レーザーの損失を大きい状態から小さい状態へと瞬時に変化させることで、発振前に蓄積されたキャリアが一気に光へと変換され、パルス幅が短く、ピーク出力が高いパルス光が発生する。
※8 深化させた設計
京都大学プレス発表別ウィンドウが開きます 「フォトニック結晶レーザーを搭載したLiDARの開発に世界で初めて成功―来たるべき超スマート社会におけるスマートモビリティの発展に貢献―」を参照のこと。

【論文タイトルと著者】

タイトル:
“Photonic-crystal lasers with two-dimensionally arranged gain and loss sections for high-peak-power short-pulse operation”
R Morita, T. Inoue, M. De Zoysa, K. Ishizaki, and S. Noda
Department of Electronic Science and Engineering, Kyoto University Kyoto 615-8510,Japan
Nature Photonics
DOI
10.1038/s41566-021-00771-5.

5.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO IoT推進部 担当:柿沼、熊谷(伸)、矢田 TEL:044-520-5211

京都大学 大学院工学研究科 教授 野田 進
TEL:075-383-2315
E-mail:snoda@kuee.kyoto-u.ac.jp

量子科学技術研究開発機構 イノベーションセンター SIP推進室
(SIP事業「光・量子を活用したSociety 5.0 実現化技術」に関すること)担当:岡村 康行
TEL:03-6683-9069
E-mail:sip-info@qst.go.jp

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:鈴木(美)、坂本 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

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