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国内初、高効率帯水層蓄熱システムのZEB適応性を検証
―地下水熱エネルギーの有効活用により、建物のエネルギー収支ゼロを目指す―

2021年7月6日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
日本地下水開発株式会社

NEDOは再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発に取り組んでおり、このたび同事業で日本地下水開発(株)は日本で初めて高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システムを、ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)に適応させる実証施設を山形県山形市に整備しました。

実証試験とモニタリングによりデータを収集し、システムの最適化設定によってさらなるコストダウンに取り組みます。これにより本システムのZEBへの適応性を向上させ、地下水熱エネルギーの有効活用による建物のエネルギー収支ゼロを目指します。

実証施設の全景写真
図1 実証施設の全景

1.概要

再生可能エネルギーの利用拡大には電力に加え、地中熱や太陽熱、雪氷熱などの熱利用も重要とされています。しかし再生可能エネルギー熱利用※1においては、依然として導入にかかる高いコストが課題として挙げられています。

そこで国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「再生可能エネルギー熱利用技術開発※2」で、再生可能エネルギー熱利用システムの普及促進・市場拡大を図るため、導入や運用システムのコストダウンに関する研究開発を実施しました。この事業でNEDOと日本地下水開発株式会社は、国立大学法人秋田大学、国立研究開発法人産業技術総合研究所と共に、地下帯水層に冷熱・温熱を蓄え有効利用する国内初の高効率帯水層蓄熱システムを開発しました。これを日本地下水開発(株)の事務所で空調に導入した結果、従来のオープンループシステムと比較して初期導入コストの21%削減と年間運用コストの31%削減を達成しました。

その後、2019年にスタートしたNEDOの助成事業「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発※3」において、日本地下水開発(株)はゼネラルヒートポンプ工業株式会社と共同で、上記事業の成果を発展させ開発した高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システムを、ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)※4に適応させる検証に着手しました。2021年7月、国内では初となる、同システムのZEB適応性を検証するための実証施設を山形県山形市に新築し、検証に向けた各種データのモニタリングとデータ収集を開始しました。今後は実証試験とモニタリングによりデータを収集し、データ解析を通じたシステムの最適化設定によってさらなるコストダウンに取り組みます。これにより本システムのZEBへの適応性を向上し、地下水熱エネルギーの有効活用による建物のエネルギー収支ゼロを目指します。

2.今回の成果

【1】実証施設の概要

高効率帯水層蓄熱を利活用したトータル熱供給システムのZEB適応性を検証するための実証施設を、2021年7月7日、山形県山形市に『ZEB』として新築しました。実証施設の建築概要と冷暖房負荷を表1に示します。

表1 実証施設の建築概要と冷暖房負荷
建築概要 階  数 地上2階
建築面積 285.0㎡
延床面積 562.5㎡
構  造 鉄骨造
冷暖房負荷 冷房負荷  64W/㎡
暖房負荷  35W/㎡

【2】実証施設に導入した省エネルギー技術と創エネルギー技術

実証施設に導入した省エネルギーと創エネルギー技術を表2に示します。当施設には30.7kWの太陽光発電設備と太陽熱温水器を創エネルギーとして導入したほか、断熱効果を高めるため壁の厚さを300mmにしました。また、換気装置は全熱交換システム、照明はLED照明にしています。また、南西側の窓には、太陽輻射熱を最大82%遮断する外部ブラインドを追加設置しています。なお、真空管式太陽熱温水器は不凍液循環型とすることで、外気温の影響を受けにくく、冬期でも太陽が出れば一定の集熱能力を発揮する見込みです。

表2 実証施設に導入した省エネルギー技術と創エネルギー技術
省エネルギー 外皮断熱 気泡コンクリート、厚さ=150mm
現場吹付ウレタン、厚さ=40mm
現場吹付ウレタン、厚さ=60mm
スタイロフォーム、厚さ=100mm
2F天井 グラスウール、厚さ=100mm
アルミ断熱サッシ、Low-E複層ガラス
換気装置 全熱交換システム
外部ブラインド 実証施設の南西側窓に設置(夏の西日を軽減)
照明 LED照明(一部人感センサー付)
給湯・冷暖房・無散水消雪 高効率帯水層蓄熱を利活用したトータル熱供給システム
創エネルギー 真空管式太陽熱温水器 84本(14本/セット×6セット)
太陽光発電パネル 30.7kW(307W×100枚)

【3】高効率帯水層蓄熱を利活用したトータル熱供給システムの概要

ZEB実証施設を対象にした高効率帯水層蓄熱を利活用したトータル熱供給システムの模式図を図2に示します。このトータル熱供給システムで、冷暖房・給湯・冬期の無散水消雪の計三つの熱供給に対応します。専用ヒートポンプは前事業で開発した冷暖房専用ヒートポンプに給湯回路を付加する形で、ゼネラルヒートポンプ工業(株)と共同開発しました。夏期の冷房は、帯水層に前冬期に蓄えた冷熱を有効利用して、地下水フリークーリングを行う予定です。ヒートポンプを使用しない冷房によって、より大きな省エネ効果が得られる見込みです。給湯回路には真空管式太陽熱温水器を組み込んでおり、夏期はもちろん冬期でも太陽熱の集熱効果を見込んでいます。

  • 帯水層蓄熱を利活用したトータル熱供給システムの模式図(左:夏期稼働,右:冬期稼働)
    図2 帯水層蓄熱を利活用したトータル熱供給システムの模式図(左:夏期稼働,右:冬期稼働)

3.今後の予定

本事業で日本地下水開発(株)はゼネラルヒートポンプ工業(株)と共同で、ZEB実証とシステムの適応性評価に向けたモニタリングを進め、データの収集・解析に取り組みます。実証施設における高効率帯水層蓄熱を利活用したトータル熱供給システムの稼働データに基づき、専用ヒートポンプの空調・給湯それぞれの効率と性能の把握を進めるほか、システムの最適化設定によるコストダウンの検討を行う予定です。

【注釈】

※1 再生可能エネルギー熱利用
冷暖房や給湯のための熱を得るために地中熱、太陽熱、雪氷熱などの再生可能エネルギーを用いることです。
※2 再生可能エネルギー熱利用技術開発
研究開発項目:地下水を利活用した高効率地中熱利用システムの開発とその普及を目的としたポテンシャルマップの高度化
事業期間:2014年度~2018年度の5年間
事業予算:43億円(事業全体)
参考:NEDOニュースリリース 2018年6月11日 サイト内リンク 「国内初、高効率帯水層蓄熱システムを開発」
※3 再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発
研究開発項目:ZEB化に最適な高効率帯水層蓄熱を利活用したトータル熱供給システムの研究開発
事業概要:サイト内リンク 再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発
事業期間:2019年度~2023年度の5年間
事業予算:4.5億円(2021年度事業全体)
※4 ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)
Net Zero Energy Buildingの略で、建築構造や設備の省エネルギー、再生可能エネルギー・未利用エネルギーの活用、地域内でのエネルギーの面的(相互)利用などの対策をうまく組み合わせることにより、エネルギーを自給自足し、化石燃料などから得られるエネルギー消費量がゼロ、あるいは概ねゼロとなる建築物のことをいいます。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 新エネルギー部 担当:谷口、津留﨑 TEL:044-520-5183­

日本地下水開発(株) 営業本部企画開発部 担当:山谷 TEL:023-688-6002­

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:坂本、鈴木(美)、橋本 TEL:044-520-5151­ E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

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