AIでレタスの生育状況を推定する実証試験に成功
―生育異常の早期発見や適切な選別により植物工場の生産性を向上―
2022年4月14日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
株式会社ファームシップ
NEDOは「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」事業に取り組んでおり、その一環として(株)ファームシップは、人工知能(AI)を活用して非接触・非破壊でレタスの重量を推定するアルゴリズムを開発しています。このたび実際の植物工場で本アルゴリズムの実証試験を行い、実測値に対する高い推定精度を確認しました。
本アルゴリズムは、撮影したレタスの画像を解析して重量を推定します。このため、栽培途中でも重量の効率的な測定ができ、生育異常の早期発見や適切な選別による収穫量の増加、収穫量の正確な予測などにより、植物工場の生産性向上が可能となります。
NEDOと(株)ファームシップは今後、選別精度の向上による収穫量の変化を検証するほか、栽培データの蓄積を進めていきます。さらに、本事業の一環で開発中の需要予測技術および成長制御技術と組み合わせることで、高精度な需給調整の実現を目指します。
1.概要
植物工場は露地栽培に比べて天候に左右されず、また狭い耕地で安定的に生産できることから、近年は野菜の生産量が著しく伸びています。しかし植物工場でも生育環境を完全に均一にすることは難しく、成長速度には個体ごとのばらつきもあることから、植物工場における生育状況の効率的な把握・管理が課題となっています。
図1は実際に植物工場で栽培しているレタスの重量分布をグラフ化したもので、赤丸部分のレタスは平均の半分程度の重量しかないことを示しています。人工知能(AI)によってこうした成長速度の遅い個体を早い段階で発見して選別したり、適した環境の場所に移しかえたりすることで成長のばらつきを抑えることができ、より安定的・効率的な生産が可能となります。また、平均的な分布と比較して著しい差異を早期に検知することもでき、生産不良を未然に防ぐことが可能となります。
このような背景のもと、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が取り組む「人工知能技術適用によるスマート社会の実現※1」事業において、株式会社ファームシップはAIを活用した野菜の非接触・非破壊重量推定アルゴリズムの開発を進めてきました。その成果として、このたび実際の植物工場で生産されたレタスの重量を開発したアルゴリズムで推定する実証試験を実施し、実測値に対して高い推定精度であることを確認することができました。
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図1 実際の植物工場で栽培中のレタスの重量分布例
2.今回の成果
本事業で開発したアルゴリズムは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)※2を利用したObject detection※3という手法と、重量密度※4をCNNに学習させることで、CNNが重量密度を予測できるようにした回帰分析手法を組み合わせています。本実証試験では、20個のレタスが部分的に重なった画像から個々のレタスの矩形(長方形)面積を正確に抽出し、相関係数0.76(完全一致は1、相関関係がなければ0)と高い連動性で個々のレタスの重量を推定することに成功しました。
通常、CNN画像を学習するには、正方形に変換する必要があります。しかしその際に、元々のレタスの大きさの情報が失われてしまう課題がありました。このため本手法では重量密度を推定して、最後に矩形面積を乗じてレタスの重量を算出することで、矩形の大きさの情報を生かしてより正確な予測をすることができるようにしました。複数のレタスを同時に、かつ非接触・非破壊で計測できることから、栽培途中でも効率的に個体ごとの重量を推定することが可能となります。
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図2 今回開発したAI技術の模式図
3.今後の予定
NEDOと(株)ファームシップは本アルゴリズムを用いて、植物工場での植え替え作業時にレタスを撮影して生育状況を推定し、個体ごとの重量を揃えて栽培できるシステムの実現を目指します。今後、選別精度の向上による収穫量の変化を検証するほか、栽培データの蓄積を進めていきます(図3)。さらに、本事業の一環で開発中の需要予測技術※5および成長制御技術と組み合わせることで、高精度な需給調整の実現を目指します。
(株)ファームシップは2023年度以降、本システムの実用化に向けて検討を進める予定です。本システムの実用化により、将来は、規格野菜を無駄なく出荷できるようになります。同時に露地栽培に比べ生産コストが抑えられるため、消費者は植物工場で生産した高品質な野菜がより安価で入手可能になります。また、効率的な生産によって無駄になっていたエネルギーも削減でき省エネ化にも貢献します。
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図3 本アルゴリズムを用いたレタスの生育状況推定システム
【注釈】
- ※1 人工知能技術適用によるスマート社会の実現
- 事業名:人工知能技術適用によるスマート社会の実現/AIによる植物工場等バリューチェーン効率化システムの研究開発
事業期間:2018年度~2022年度
委託先:株式会社ファームシップ、国立大学法人東京大学
再委託先:パイマテリアルデザイン株式会社、国立大学法人豊橋技術科学大学
事業概要: 人工知能技術適用によるスマート社会の実現
紹介動画:NEDO Channel「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」
紹介動画:NEDO Channel「AIによる植物工場等バリューチェーン効率化システムの研究開発」 - ※2 畳み込みニューラルネットワーク(CNN)
- 画像などの2次元のデータの認識に特によく用いられるニューラルネットワークの一種です。2次元の平面データを複数チャネルがもつ入力活性に対し、カーネルとの離散畳み込みを適用して特徴を抽出する畳み込み層、入力サイズの縮小と特徴の位置ずれの吸収を行うプーリング層、畳み込み層とプーリング層が抽出した特徴の分類を行う全結合層などから構成されます。
- ※3 Object detection
- 動画像内に特定の物体が存在するかを検出し、もし存在する場合には各物体の位置と範囲を推論する技術で、深層学習を用いた手法が活発に開発されています。物体が存在する際は、その物体を囲む矩形を推定する手法が主流です。
- ※4 重量密度
- 本開発で考案した、実際のレタスの重量を画像から抽出した矩形(長方形)の面積で割った値です。
- ※5 需要予測技術
- 参考:ニュースリリース 2019年11月19日「AIを活用した野菜の市場価格の予測アルゴリズムを開発」
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO ロボット・AI部 担当:加藤、寺下 TEL:044-520-5241
(株)ファームシップ 担当:近藤 TEL:03-5829-9601
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:鈴木、坂本、橋本、根本
TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp
- 新聞、TVなどで弊機構の名称をご紹介いただく際は、“NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)”または“NEDO”のご使用をお願いいたします。
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