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NEDO事業成果を基に、微生物発酵による化学物質生産技術の事業化取り組みを本格開始
―植物由来の化学物質を、持続可能でスケーラブルかつ安価に生産―

2023年6月13日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)

NEDOの「植物等の生物を用いた高機能品生産技術開発」(以下、本事業)の一環として石川県立大学は、神戸大学、産業技術総合研究所、千葉大学、理化学研究所などと共同で、2018年度に植物由来の希少化学物質を微生物発酵によって生産する技術(以下、本技術)を開発しました。石川県立大学の南博道准教授は、この成果を基にファーメランタ(株)を設立し、このたび本技術の事業化に向けた取り組みを本格的に開始しました。

本技術は合成生物学を利用しており、植物由来の化学物質を微生物内で、持続可能でスケーラブルかつ安価に生産する微生物生産プロセス技術です。ファーメランタ(株)の独自技術である、遺伝子の発現バランスの調整による生産性の最適化やタンパク質の過剰発現による毒性に耐性を有する菌株などの技術と組み合わせ、20段階以上の生合成経路を細胞内に構築することで、実用生産の目安である培養液1リットル当たり1グラム以上の発酵生産が可能となります。

今後ファーメランタ(株)は、基盤技術の強化を図り、その後の試作およびスケールアップフェーズへ展開し、2027年の事業化を目指します。

1.概要

植物や微生物から抽出される物質中には希少で有用な成分が多く存在していますが、自然界での物質生産は供給が不安定でコストも高いなどの課題があります。特に農業による生産方法は、その植物の栽培に多大な時間がかかるとともに、栽培条件、環境などが限定されることから、工業的な生産には大きな障壁があります。これまでに遺伝子組み換え植物体や培養細胞を用いた大量生産の成功例はあるものの、普遍的な大量生産の方法は確立されていません。また、植物由来の希少成分を微生物で生産するには10~30種類の外来遺伝子を細胞に導入する必要があり、従来の技術では不可能でした。

そこでNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2016年度から2021年度まで本事業※1で、植物や微生物の細胞が持つ物質生産能力を人工的に最大限引き出すための技術開発プロジェクトを推進してきました。

その一環として石川県公立大学法人石川県立大学は、国立大学法人神戸大学、国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立大学法人千葉大学、国立研究開発法人理化学研究所などを中心とする共同チームで2018年に本技術を開発するとともに、石川県立大学の南博道准教授らは、この成果の一部を2019年に権利化(特願2019-116701)しました。さらに南准教授らは、2021年から生物系特定産業技術研究支援センターの「スタートアップ総合支援プログラム(SBIR支援)」の支援を受け技術開発を進め、これらの成果を基に2022年10月に研究開発型スタートアップであるファーメランタ株式会社※2を設立しました。

そして今般、ファーメランタ(株)はBeyond Next Ventures株式会社、Angel Bridge株式会社、Plug and Play Japan株式会社から資金調達を行い、本技術の事業化に向けた取り組みを本格的に開始しました。

今後ファーメランタ(株)は、基盤技術を強化し、その後の試作およびスケールアップフェーズへ展開し、2027年の事業化を目指します。

NEDOは、これらの物質生産能力を引き出した細胞「スマートセル」を構築する技術の実用化を促進することで、医薬品や化粧品、健康食品、高機能化学品などの市場でのサステナブルなものづくりの実現に貢献します。

2.本技術の特長

本技術は合成生物学を利用しており、植物由来の化学物質を微生物内で、持続可能でスケーラブルかつ安価に生産する微生物生産プロセス技術です。

本事業で南准教授らは、情報解析技術を用いてさまざまな生物種からの最適な生合成遺伝子を組み合わせることにより、大腸菌内で効率的な植物二次代謝産物※3の改変型生合成経路※4を構築することに成功しました(図中技術[1])。併せて、前例のない数である20種類以上の外来遺伝子を1菌体に導入し適切に発現させることを可能とする多段階遺伝子導入技術を確立しました(図中技術[2])。これにより、微生物発酵生産で一般的に用いられているグルコースを原料として、多様なアルカロイド化合物※5のプラットフォームとなる中間体や医薬品原料の高効率な微生物発酵生産システムを、世界で初めて開発しました。

本技術を、ファーメランタ(株)の独自技術である多段階導入遺伝子の発現バランス最適化(図中技術[3])や、タンパク質過剰発現耐性菌株※6(図中技術[4])などの技術と組み合わせることで、20段階以上の生合成経路を細胞内に構築し、実用生産の目安である培養液1リットル当たり1グラム以上の発酵生産が可能となります。この収量は、伝統的な農業による生産方法と比較して、低コストに医薬品などの原料を供給することを可能とします。

  • 本技術の特長を説明した図
    図 本技術の特長

【注釈】

※1 本事業
※2 ファーメランタ株式会社
研究開発型ベンチャーにおける高度専門支援人材の育成プログラム「NEDO Technology Startup Supporters Academy(通称SSA)」フェローである柊崎氏が代表取締役として参画しています。
別ウィンドウで開きますファーメランタ(株)ホームページ
※3 植物二次代謝産物
生物の生命活動の維持に必須である糖や有機酸、アミノ酸、脂質などを一次代謝産物と呼びます。植物は一次代謝産物から派生させて多種多様な化学的構造を有する成分を生合成することができ、それらを植物二次代謝産物と呼びます。進化の過程における生存戦略を背景として、植物による外敵への防御やストレス耐性、昆虫の誘引などに作用しています。
※4 改変型生合成経路
本来植物が有する生合成経路ではなく、さまざまな生物種由来の遺伝子を組み合わせることで、物質生産効率の向上を目的に最適化された人工的な生合成経路です。
※5 アルカロイド化合物
窒素原子を含み塩基性を示す天然由来の有機化合物の総称です。
※6 タンパク質過剰発現耐性菌株
人為的に導入した外来遺伝子によるタンパク質を過剰に発現させることは、細胞の生存生育に毒性を示します。ファーメランタ(株)は、それらの課題を克服するプラットフォーム菌株を独自に作出することに成功しています。

3.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 材料・ナノテクノロジー部 バイオエコノミー推進室 担当:山口(優) 、峯岸、林(智)
TEL:044-520-5220 E-mail:smartcell[*]ml.nedo.go.jp

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:橋本、坂本(信)、瀧川、黒川、根本
TEL:044-520-5151­ E-mail:nedo_press[*]ml.nedo.go.jp

E-mailは上記アドレスの[*]を@に変えて使用してください。

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