世界初、燃料電池・水電解の材料を「動かしながら丸ごと診る」専用ビームラインをSPring-8-IIに建設します
―複数の最先端計測を一度に行い、燃料電池・水電解の研究開発を加速。脱炭素・水素社会の実現に貢献します―
2026年8月20日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
国立大学法人京都大学
NEDOは京都大学と共同で、「水素利用拡大に向けた共通基盤強化のための研究開発事業」の一環で、大型放射光施設SPring-8の次世代施設「SPring-8-II」に、水素エネルギー分野に特化した世界初の専用ビームライン「BL34XU」を建設します。
本ビームラインは、SPring-8-IIで最初に新設される専用ビームラインです。SPring-8-IIは、放射光の明るさ(輝度)が現行の約100倍に高まり世界最高輝度に達する第4世代放射光施設であり、本ビームラインはこの世界最高性能の光を最大限に生かします。最大の特長は、一つの材料を、性質の異なる複数の最先端計測で同時に、しかも実際に動作させたまま調べ上げられることです。いわば材料の「総合精密検査(人間ドック)」とも言え、これまで別々の装置で一つずつ調べていた項目を一度に観察できるため、燃料電池や水電解の内部で起きている現象を、動作したまま丸ごと捉えられます。ここにAI・データ科学(DX)を組み合わせることで、従来は複数の施設・装置を横断して数週間を要した解析を、同一条件で一度に、かつ高速に行えるようになり、研究開発を飛躍的に加速します。
SPring-8-IIの建設に合わせて2027年度後半に着手し、2029年度の利用開始を目指します。本ビームラインは、大学の学術研究・国家プロジェクト・産業利用を一つに結ぶ、日本の産官学による研究開発の共通基盤として、中長期のエネルギー問題の解決と二酸化炭素排出量の削減に貢献します。
1.背景
水素は、GX(グリーントランスフォーメーション)やエネルギー安全保障の観点から、国が重点的に推進する戦略分野の一つに位置付けられています。燃料電池、水電解、水素キャリアなどの技術開発は脱炭素社会の実現に向けた重要課題であり、国際的な開発競争も激化しています。日本はこれまで、燃料電池・水電解分野の基礎学術研究で世界をけん引し、知的財産の面で競争力を有してきました。この優位性を早期の社会実装につなげるためには、革新的な材料開発に加え、製造・生産プロセスの技術開発で「勝ち筋」を見いだすことが不可欠です。
燃料電池・水電解デバイスのさらなる高性能化・高耐久化・低コスト化には、触媒層のナノ~ミクロンスケールの多孔構造や電極反応の不均一性など、階層的で不均質な構造を正確に捉える必要があります。単一の計測手法では解析できる要因が限られるため、複数手法の同時計測を行う「マルチモーダル計測※1」と、デバイスが動作している状態で計測する「オペランド計測※2」が求められます。さらに、国際競争に打ち勝つには、大量のデータを高速に取得し、AI・データ科学で活用するDX(デジタルトランスフォーメーション)が必要です。こうした要請に応えるため、NEDOは2025年度から本事業※3に取り組んでおり、京都大学拠点では専用ビームラインの建設を先端評価技術開発の柱の一つとして進めています。
2.プロジェクトの概要
(1)世界初、材料を「多角的に同時計測」する専用ビームライン
本ビームライン(正式名称:水素エネルギーマテリアル・マルチモーダル計測ビームライン、BL34XU)は、光源からビームラインまでをSPring-8-II※4仕様で一体設計し、材料からデバイス、製造プロセスまでを一つの研究基盤上で連結します。硬X線の高い透過力を生かし、4.5~35keVおよび100keVの広いエネルギー領域で、性質の異なる複数の計測法である、XAFS(局所構造・電子状態)、XRD(結晶構造)、PDF(結晶・非晶質構造)、SAXS/USAXS(ナノ~階層構造)、HERFD-XANES/RIXS(電子状態・化学結合状態)、X線CT/ラミノグラフィ(3次元イメージング)※5などを、目的に応じて選択し、同一試料・同一条件で同時に計測します。一つずつでは見えなかった複雑な材料・界面の状態を、一度に、高い信頼性で捉えられます。
(2)第1実験ハッチ:材料・反応機構をオペランドで解く
燃料電池・水電解デバイスの触媒や電解質膜を対象に、温度・ガス・電位などの条件を制御しながら、反応や劣化が進行している状態のまま、複数の計測を同時に行います。反応機構の解明、劣化の前触れ(前駆現象)の検出、性能を左右する要因の特定を一度に行い、材料探索とメカニズム解明を高速化します。従来は複数のビームラインを横断して約1カ月を要した計測が、同時計測により約1日で完了し、およそ30倍の高速化が見込まれます。取得した大量のデータはマテリアルズ・インフォマティクス(MI)※6に活用します。
(3)第2実験ハッチ・延伸ハッチ:科学とものづくりを橋渡し
燃料電池・水電解デバイスに用いる触媒インクの混錬・塗布・乾燥を行う製造プロセス装置や、大面積セル・実機部材をビームラインに持ち込み、SAXS/USAXSとX線CT/ラミノグラフィの同時計測により、0.1nmから100µmにわたる階層構造を可視化します。塗布・乾燥プロセスのメカニズムや、面内の不均一・クラックの起点などの課題を解明し、プロセス・インフォマティクス(PI)※6による製造条件の最適化につなげます。
(4)世界最高輝度のSPring-8-IIを最大限に活用
SPring-8-IIは、放射光を生み出す電子ビームを極めて細く絞る(超低エミッタンス化する)第4世代放射光施設で、放射光の輝度は現行SPring-8の約100倍に達し、世界最高輝度を実現します。あわせて光のコヒーレンス(干渉性)も飛躍的に向上します。本ビームラインはSPring-8-IIで最初に新設される専用ビームラインであり、この世界最高性能を生かして、100nm級の集光ビームを用いた高速走査型顕微XAFSや、100keVピンクビームによるX線全散乱PDF計測など、従来は困難であった高難度・高精度の計測を実現します。
(5)建設スケジュール
SPring-8-IIへの更新に伴うシャットダウン期間(2027年度後半~2028年度)に建設を行い、第4世代放射光施設への生まれ変わりに合わせて2029年度の利用開始を計画しています。装置類の設計・発注は2025年度から順次開始しています。
3.今後の予定・社会的意義
本ビームラインの意義は、世界最先端の計測技術を一つ増やすことにとどまりません。NEDOと京都大学は、本ビームラインを「学術研究」「国家プロジェクト」「産業利用」を一つの研究基盤上で結び付ける、日本の産官学による水素エネルギー研究開発の共通基盤として整備します。今後は大学などによる先端的・基礎的な研究に加え、個社では整備が難しい世界最高水準の解析環境を産業界に開き、企業の実課題に直結する解析支援を並行して実施することで、燃料電池・水電解デバイス開発期間の短縮と競争力の向上に直接貢献します。また、自動車・エネルギー関連企業には産業界からのアドバイザーとして本ビームライン設置に向けた取り組みに参画いただき、現場のニーズを反映した運用を行います。
本ビームラインは、目先の個別技術の開発にとどまらず、燃料電池・水電解をはじめとする水素エネルギー技術の基盤を長期にわたって支えます。世界をリードしてきた日本の水素関連技術の蓄積を確かなものとし、産官学が一体となって研究開発を進めるこの共通基盤を通じて、京都大学とNEDOは、日本が直面する中長期のエネルギー問題の解決と、二酸化炭素排出量の削減、ひいてはカーボンニュートラル社会・水素社会の実現に貢献します。
【注釈】
- ※1 マルチモーダル計測(多角的な同時計測)
- 一つの試料を、性質の異なる複数の放射光計測法(XAFS・XRD・PDF・SAXS・CTなど)で同時(または連続)に調べ、得られた情報を統合して解析する手法。人間の「総合精密検査(人間ドック)」のように、これまで別々の装置で行っていた検査を一度に行うことで、単一手法では捉えられない複雑な材料の状態を総合的かつ高い信頼性で把握できます。
- ※2 オペランド計測
- 燃料電池や水電解セルなどのデバイスを、実際に動作させた状態のまま計測する手法。動作条件下での材料・界面の構造や電子状態の変化を捉えます。
- ※3 本事業
-
- 事業名:水素利用拡大に向けた共通基盤強化のための研究開発事業
- 事業期間:2025年度~2029年度
- 事業概要:水素利用拡大に向けた共通基盤強化のための研究開発事業
- 実施:京都大学拠点(JASRI、理化学研究所等の協力を得て建設)
- 本ビームラインは、本事業の委託費により、京都大学が実施する取り組みの一つとして、建設します。
- ※4 SPring-8-II
- 兵庫県・播磨科学公園都市にある世界最高性能クラスの大型放射光施設、SPring-8がアップグレードする次世代(第4世代)のSPring-8-IIは、電子ビームを極めて細く絞る(超低エミッタンス化する)ことにより、放射光の明るさ(輝度)が現行の約100倍に高まって世界最高輝度に達し、光のそろい方(コヒーレンス)も飛躍的に向上します。
- ※5 XAFS(局所構造・電子状態)、XRD(結晶構造)、PDF(結晶・非晶質構造)、SAXS/USAXS(ナノ~階層構造)、HERFD-XANES/RIXS(電子状態・化学結合状態)、X線CT(3次元イメージング)
- いずれも放射光を用いた計測・解析手法。局所構造・電子状態、結晶構造、非晶質構造、ナノ~階層構造、3次元イメージングなど、対象や目的に応じて用います。
- ※6 MI/PI(マテリアルズ・インフォマティクス/プロセス・インフォマティクス)
- AI・統計的手法を用いて、材料の組成・特性や製造プロセスを予測・最適化するデータ駆動型の研究開発手法。
4.問い合わせ先
本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先
NEDO 水素・アンモニア部 水素共通基盤ユニット
TEL:044-520-5261 E-mail:fuelcell[*]ml.nedo.go.jp
京都大学 成長戦略本部
TEL:075-753-5555 E-mail:pr-iac[*]mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先
NEDO 経営企画部 広報企画・報道課 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press[*]ml.nedo.go.jp
E-mailは上記アドレスの[*]を@に変えて使用してください。
- 新聞、TVなどで弊機構の名称をご紹介いただく際は、“NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)”または“NEDO”のご使用をお願いいたします。
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