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NEDOの取り組み・事業紹介
AI

1.NEDOのAI技術開発の歴史

2000年代に入って、機械学習(マシンラーニング)、特に深層学習(ディープラーニング)が急速に進展し、第3次AI(人工知能)ブームが到来しました。これを受けて、世界各国でAIの開発と利用を促進する動きが加速しています。

日本でも2016年に産学官が連携する「人工知能技術戦略会議」が設立され、翌2017年には「人工知能技術戦略」が策定されました。また、2019年には統合イノベーション戦略推進会議(2018年設立)が「人間中心のAI社会原則」および「AI戦略2019」を策定し、AI開発の条件や産業応用、人材育成に関する基本戦略を示しました。2022年に同会議は「AI戦略2022」を策定し、AIの社会実装の充実に向けて新たな目標を設定するとともに、パンデミックや大規模災害などの取り組むべきテーマを明確にし、AI利活用の推進を後押ししています。

NEDOのAIに関する最初のプロジェクトは、2015年の「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」です。従来のAIやロボット技術の延長線上にとどまらない革新的なデータ取得や認識、推論技術、センサーやアクチュエーター(駆動装置)といった要素技術の研究開発が進められました。また、2018年からは、「次世代人工知能・ロボットの中核となるインテグレート技術開発」(2023年度まで)を実施し、「生産性」や「空間の移動」といった重点分野を対象に、AI技術の社会実装を目指した研究開発が行われました。

現在NEDOでは、2つの事業でAIに関わる研究開発を進めています。

2.人工知能活用による革新的リモート技術開発(事業期間:2021~2024年度)

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、テレワークやオンライン会議など、空間や時間の制約を超えた社会・経済活動を支えるリモート技術が世界中で急速に普及しました。その後も、少子高齢化や職業選択の多様化などで人手不足が顕在化している業界において、産業競争力を維持・向上させるために欠かせない技術として利活用されています。

本プロジェクトでは、AIを活用した革新的なリモート技術の開発に取り組んでいます。「革新的リモート技術」とは、先進的なデバイスで計測した現場の人や環境に関する情報をもとに、AI技術を活用して必要な情報を高い臨場感で提示し、遠隔地にいる人がその状態を正確に認識できるようにする技術のことです。これにより、遠隔からでも適切な判断のもとで現場の操作や介入などが可能になります。

特に、遠隔環境の状態を認識・推定する技術は、人間の感覚と深く関わります。そのため、ーセンサーから得た情報をAIによって人の認知特性に基づいて意味づける「認知モデル」を構築し、多様な分野でのリモート技術活用につなげることを目指します。

具体的には、先進的なデバイスで取得した遠隔地の人や環境の情報をもとに、AIがその状態を推定する「状態推定AIシステムの基盤技術開発」と、遠隔環境の状態を高い臨場感で提示したりAIを活用して必要な情報を効果的にデフォルメ表示したりする「高度なXRにより状態を提示するAIシステムの基盤技術開発」の2つの基盤技術開発を軸に、以下の4つのテーマに取り組んでいます。

〔1〕極薄ハプティックMEMSによる双方向リモート触覚伝達AIシステムの開発
触覚情報のリモート伝達を可能にする触覚の記録と再生を双方向に行うデバイス技術の確立を目指し、世界最薄の極薄圧電MEMS素子により、振動触覚の記録と再生が可能なウェアラブルデバイスを開発します。併せて記録した振動を触覚、ノイズ、心拍等に分解して、ヒトの知覚に合わせて強調することで、よりリアルに触覚振動を表現する参照系AI-ISMソフトウェア技術の開発もします。さらに、開発したデバイスを用いて心(情動)、技(体感)、身体(存在感)のリモート伝達実証を行います。
〔2〕Contact Realityの実現による遠隔触診システム開発
遠隔医療等で必要な、人同士の仮想空間での接触再現を、Contact Reality(CR)と呼び、本研究ではCRを利用した遠隔触診システムの実現を目指します。
〔3〕遠隔リハビリのための多感覚XR-AI技術基盤構築と保健指導との互恵ケア連携
ヘルスケアサービス、特にリハビリテーションにおける各プロセスの遠隔化を実現するために、〔1〕利用者の生活機能評価、触力覚インタラクションのためのMR3ウェア、MR3マネキン、〔2〕利用者の心身状態推定のための常時モニタリングデバイス、〔3〕利用者の内発的動機付け支援や利用者状況記憶支援のための多感覚XRシステム、〔4〕VRに適したリハビリ・運動訓練プログラム、及び〔5〕それらを下支えするAIシステムの開発を実施します。
〔4〕AI・XR活用による空のアバターを実現する『革新的ドローンリモート技術』の研究開発
複数のドローンに分散して搭載するマルチセンサから得られるカメラ画像(可視、赤外、全方位)、LiDAR点群、音、ガス、GPS位置、姿勢、速度、方位などの外界・内界センサ情報を遅延なく高速に操作者に伝送・提示します。デジタルツイン(シミュレーション環境)上のAIが人の状態を推定するとともに、予測検知した異常等の情報を高度な没入型XR技術で操作者に伝える技術を開発しています。
  • 図表1.研究開発のスケジュール

3.人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業(事業期間:2020~2024年度)

日本は少子高齢化による生産年齢人口の減少をはじめ、さまざまな課題に直面しています。これらの課題を解決するためには、テクノロジーと社会の仕組みを連動させてイノベーションを進めることが重要です。そこで鍵を握るのがAI技術です。

AI技術は、すでに多くの分野や業務で活用されていますが、さらなる普及と発展を考えるとき、特に社会的・経済的な影響が大きい分野では、人とAIが協働し、それぞれの強みを生かして役割分担することが求められます。人とAIが相互に補完し合うことで、人はAIの推論結果から新たな発見を得られ、AIは人の知識や経験を取り入れることで精度や性能を向上させることができるからです。

NEDOの本プロジェクトでは、3つの研究開発項目を通じて、人と共に成長し進化するAIシステムの実現を目指すものです。

<研究開発項目>

(1)人と共に進化するAIシステムの基盤技術開発

人とAIが相互に作用しながら共に成長し進化するシステムを構築するためには、そこから新たな発見や気づきを得ることが重要です。そのためには、従来の機械学習、特に深層学習(ディープラーニング)において「ブラックボックス」とされるAIの推論過程や根拠を明らかにし、人がその仕組みを理解できる技術の開発が不可欠です。

一方で、AIが人から知識や洞察を学び、推論の精度や能力を向上させる仕組みの構築も欠かせません。そのために、データと知識の融合、AIによる人の意図理解といった、人とAIが相互に理解し学び合うための基盤技術開発も必要です。

本プロジェクトでは、これらの技術を実現するために、次の4つの研究開発に取り組みます。

  • 〔1〕人と共に進化するAIシステムのフレームワーク開発
  • 〔2〕説明できるAIの基盤技術開発
  • 〔3〕人の意図や知識を理解して学習するAIの基盤技術開発
  • 〔4〕商品情報データベース構築のための研究開発

(2)実世界で信頼できるAIの評価・管理手法の確立

機械学習を利用したAIシステムを実世界で適用する際には、そのAIの品質を評価・管理する手段を確立していることが重要です。例えば、貸付審査や医療診断、自動運転などでAIシステムの判断の誤りがあれば人命にも関わり、社会的・経済的影響は甚大です。

本研究開発では、以下の取り組みを通じて、具体的なAIの品質評価・管理手法の確立を目指します。

「機械学習品質マネジメントガイドライン」をもとに、実事例を活用して、評価項目や指標、目的を明確化した具体的な品質評価・管理マニュアルを策定します。さらに、AIの推論結果の安定性を計測する技術やその向上を図るための品質評価・管理技術の開発を進めます。

また、AIシステムの構築と並行して行われる品質評価・管理プロセスでは、膨大な検査データや統計データの発生が想定されるため、これらのデータを統合的に管理・活用できるテストベッドの開発も進めていきます。

加えて、標準化施策と連携し、評価手法の提案やデータ提供などを通じて、標準化に向けた取り組みを推進します。

(3)容易に構築・導入できるAIの開発

AI技術の導入が期待される分野であっても、大量の学習データを用意できない、あるいはコストがかかり過ぎるといった理由で、導入が進まないケースがあります。また、AI技術の開発プロセスにおいても、高性能なCPUやGPUなどの計算資源が必要とされ、これがコストを押し上げる要因となっています。

そこで本研究開発では、大量の学習用データで事前に学習させたモデルを活用し、少量のデータでも効率的にAIシステムを構築できるプラットフォームの開発を目指します。

こうした技術開発には、多種多様な大量データを効率よく処理できる計算基盤が欠かせないため、その設備が整った研究開発拠点を活用します。さらに、研究開発拠点の成果を他の実施者や外部の研究者が利用できるよう整備し、密接に意見交換ができる体制を構築します。

また、研究開発の成果を積極的に発信し、技術の実用化や事業化を推進することで、研究成果が実社会へ円滑に橋渡しされる仕組みも整えます。

  • 図表2.研究開発のスケジュール

最終更新日:2025年5月30日