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地熱開発における優良事例形成に役立つマニュアル、参考集の改訂版を公開
―コミュニケーションの促進と地熱発電所の導入加速化へ―

2021年11月15日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
東北緑化環境保全株式会社

NEDOは、東北緑化環境保全(株)と「地熱発電技術研究開発」の一つとして2019年8月から「優良事例形成の円滑化に資する環境保全対策技術に関する研究開発」に取り組んでおり、このたび、その事業成果として「自然環境・風致景観配慮マニュアル【改訂版】」と「配慮手法パタン参考集【改訂版】」を作成し、「地熱発電導入事業者向け環境・景観配慮マニュアル」として11月15日からNEDOウェブサイトに公開しました。本成果が地表調査から環境アセスメントまで幅広い場面で活用され、地熱開発適地選定の判断基準と手順の明確な指針となることで、地元自治体や地域住民などのステークホルダーと地熱開発事業者との円滑なコミュニケーションを促します。これにより、自然環境・風致景観に調和した地熱発電所の導入加速化が期待できます。

1.概要

政府が主導するカーボンニュートラル実現に向けて再生可能エネルギーが注目される中、地熱発電はその主力電源の一つとして導入・拡大に大きな期待がかかっています。一方で、地熱資源の約8割が国立・国定公園内に存在します。このため自然環境や風致景観、公園利用への影響を最小限にとどめるための技術や手法の投入など、地熱開発事業者には適切な対応(優良事例形成に向けた取り組み)が求められていますが、これまで事業者の参考となる具体的な手順書がないことが課題となっていました。

そこで国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「地熱発電技術研究開発※1」の一つとして「エコロジカル・ランドスケープデザイン手法を活用した設計支援ツールの開発」で、エコロジカル・ランドスケープデザイン手法(以下、エコラン手法)を用いた設計支援ツールを2018年に開発しました。エコラン手法とは、地域の自然生態系や地形などの潜在能力を借りて環境を保全・創出する技術であり、エコシステム(生態系、地形、地質、水循環、土壌、植生など)、エンジニアリング(造成、排水、構造物など)およびデザイン(ランドスケープ、景観など)の三要素の機能をバランスよく発揮させて進める設計手法です(図1参照)。

さらにこれを踏まえて、「優良事例形成の円滑化に資する環境保全対策技術に関する研究開発」では、国立・国定公園特別地域※2の3カ所の事業地(それぞれ地表調査段階、坑井調査段階、環境アセスメント段階)を対象にこのツールの試験運用を行いました。そしてこのたび、その有効性評価の結果を示すとともに、事業者が地熱開発に際しさらに使いやすいツールとして再構築しました。

  • エコラン手法の三要素の概念図
    図1 エコラン手法の三要素の概念

2.「自然環境・風致景観配慮マニュアル【改訂版】」と「配慮手法パタン参考集【改訂版】」について

このたび、NEDOは東北緑化環境保全株式会社と「自然環境・風致景観配慮マニュアル【改訂版】(通称、エコラン・マニュアル【改訂版】)」、「配慮手法パタン参考集【改訂版】(通称、パタン参考集【改訂版】)」を作成し、「地熱発電導入事業者向け環境・景観配慮マニュアル」として11月15日からNEDOウェブサイトに公開しました。地表調査段階から環境アセスメント段階まで幅広く活用可能なものとするとともに、地熱開発の適地を選定する明確な判断基準と手順を提示しています。また本事業では、環境に配慮した地熱調査や地熱発電を「見える化」するツール「汎用性3Dアプリケーション(通称、3Dアプリ)」も開発しており、これを活用することで「見える化」の向上を目指しております。

「エコラン・マニュアル【改訂版】」および「パタン参考集【改訂版】」の主な特徴を以下に示します。

<地熱開発適地選定におけるGIS解析※3

エコラン・マニュアル【改訂版】では、地熱開発適地選定におけるGIS解析の手順および判断基準を明確にしました。

従来のGIS解析手法は、熟練者が当該地域の適地選定に必要な地理情報を取捨選択し、適地を絞り込む方法が一般的です。一方、エコラン・マニュアル【改訂版】では、地理情報の種類をランク分けした判断基準を設定し、専門家による確認を経てから解析を進める手法を掲載しました(図2参照)。これにより情報重合のプロセスを明確にし、客観性を確保しています。

  • GIS解析事例図
    図2 GIS解析事例

<景観分析>

エコラン・マニュアル【改訂版】では景観分析について、既存のフォトモンタージュ法※4に加え、3Dアプリで作成した3D映像を併用しています。

優良事例形成に向けて地域との合意形成を進める上で、景観分析は大きな要素です。そこで現地撮影箇所しか表示できないフォトモンタージュ法に対し、3D映像を併用することであらゆる視点や天候(雲量)、季節、時刻、施設の色などにも対応できるようにしました(図3参照)。地域協議会や住民説明などで活用することで、ステークホルダーと容易に共通認識が醸成されることが期待されます。

<土地利用計画>

地熱開発適地として選定されたエリアにおいて、パタン参考集【改訂版】を活用することで、エコシステム、エンジニアリング、デザインの各機能がバランスよく発揮できる造成計画や施設配置が可能となります。検討プロセスではパタン参考集【改訂版】に加えて3Dアプリを活用し、ランドスケープ・アーキテクト※5などの専門家が参画することで、計画策定の考え方や手順、3Dによる計画、それぞれの「見える化」を向上することができます。

  • 景観分析事例図
    図3 景観分析事例

3.今後の対応

すでに、環境省の「令和3年度地域共生型の地熱利活用に向けた方策等検討会」で国立・国定公園内における地熱開発の取り扱いなどが議論されており、本事業の成果としてまとめた「エコラン・マニュアル【改訂版】」や「パタン参考集【改訂版】」も参考資料として活用されています。今後も地熱開発における優良事例形成に向けた取り組みに際し、多くの事業者や地熱に関わる技術者などに活用してもらうことで、作業効率の向上や手戻り軽減といった円滑な事業の推進に役立つことを目指します。また、ステークホルダーと地熱開発事業者のコミュニケーションに活用されることで、自然環境・風致景観に調和した地熱発電所の導入加速化に貢献します。

【注釈】

※1 地熱発電技術研究開発
事業概要:サイト内リンク 地熱発電技術研究開発
事業期間:2013年度から2021年度
※2 国立・国定公園特別地域
国立・国定公園に指定された地域は、風致景観の重要性などにより、特別保護地区、第一種特別地域、第二種特別地域、第三種特別地域、海域公園地区、普通地域の地種区分に分けられます。地熱開発においては、特別保護地区、第一種特別地域地上部は開発不可、第二種・第三種特別地域は優良事例や小規模事例などであれば開発が可能(環境省通知:国立・国定公園内における地熱開発の取扱いについて(R3.9改訂))で、本事業では第二種・第三種特別地域の事業地を対象としています。
※3 GIS解析
地理情報システム(GIS:Geographic Information System)は、地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術です。
※4 フォトモンタージュ法
現場の写真に、書き加える、消す、色を変更する、他の写真と合成するなどのモンタージュ処理を行い、将来形などを示す技術です。
※5 ランドスケープ・アーキテクト
国内では一般社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会の認定資格として、「登録ランドスケープ・アーキテクト(略称RLA)」と称します。同協会において、「現在および将来に亘(わた)る人々の安全・環境・健康・文化・福祉に対する責任を自覚し、地球環境時代における美しい都市と地域づくりを担うランドスケープアーキテクチュア業務を遂行するに必要な一定水準の知識・技術・能力を持つもの」と定義されます。自然要素、生態学的原理、地域の歴史文化などを活かした空間をデザインする職能が求められます。海外では国家資格とされている場合が多いです。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 新エネルギー部 担当:加藤、長谷川 TEL:044-520-5270

東北緑化環境保全株式会社 担当:佐藤(久)、小嶌
TEL:022-263-0918 E-mail:geothermal@tohoku-aep.co.jp

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:根本、坂本、橋本、鈴木(美)
TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

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