バイオ・材料部 主任
2020年度入構
生命科学研究科
2020年 評価部(現在の事業統括部)に配属
2023年 材料・ナノテクノロジー部(現在のバイオ・材料部)に異動
技術革新の現場に関わりたいと入構。プロジェクトをうまく進めるには、関係者と本音で話すことが大切だと気付いてからは、積極的にコミュニケーションを取るように心がけている。休日は家でゲームを楽しむインドア派。
今、世界は持続可能な社会の実現のために、省エネルギーで化石燃料を使わないものづくりへのシフトが求められています。そこで注目されているのが、遺伝子技術を活用して微生物や動植物の細胞などによって物質生産を行う「バイオものづくり」です。その潜在能力を生かして、飛行機用ジェット燃料やプラスチック、繊維といったこれまで石油化学プロセスで作られていた製品も生産することが可能になってきています。経済産業省が2030年の市場規模目標を53.3兆円と設定し、同年までに官民合わせて年間投資を3兆円規模に拡大する方針であることからも、この分野に対する期待の大きさがうかがえます。目標達成には、多くの企業がバイオものづくりに新規参入すること、そして既存の技術の飛躍的な効率化が欠かせません。そのための道筋を付けようとしているのが「バイオものづくりプロジェクト*」です。
「バイオものづくりで製品を作るには、まず、有用な微生物などの細胞を見つけることから始まります。それを培養して効率的に目的物質を生産するプロセスを開発し、さらに十分なスケールアップ、生産実証などを経て、ようやく製品化につながります。この開発フローの各段階にボトルネックが存在しており、こうした問題を一つの企業で解決するのは難しいのです。そこでこのプロジェクトでは、多くの企業が共通して使える基盤技術を確立しようとしています」と木下は説明します。
*正式名称は「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」
このプロジェクトには100を超える事業者が参画しており、木下はサブプロジェクトマネージャーとして、NEDOメンバー8名や外部の有識者とともにマネジメントにあたっています。プロジェクトマネージャーとともに、経済産業省、有識者、事業者などと議論し、NEDOが中心となってプロジェクトを進めているのです。その過程で、経済産業省への予算要求、技術開発に関する委員会の運営、参画企業やアカデミアへの進捗状況の確認、研究開発の方針の提示などの様々な業務に加え、プロジェクトに割り当てられた約26億円の年度予算を、事業者の研究開発の進捗状況に応じて配分調整するといった仕事をしています。
この状況について、「そこそこ忙しい」としながら「企業から大学、研究所、省庁まで、一つの企業に勤めていたのでは知り合えないような幅広い立場の方と関わることができるのは、NEDOの業務ならではだと思います。特に、研究者の方々が“この技術で世界を変えたい”と熱を持って開発しておられるので、それを推進している私もやりがいを感じています」と話します。
その一方で、「私は大学院までバイオを学んだので、その知識は研究者と議論する際に役立っています。ただ、自分の専門分野を生かしたいとか、自分の夢を第一優先にして、この仕事をしているわけではありません。国の政策の実現のため、研究開発をどのように進めるのがよいだろうかという、一歩引いた俯瞰的な視点で業務に取り組むことが大事だと考えています」とNEDO職員に求められる立ち位置を説明します。
木下はどのように事業者と関わっているのでしょうか。例えば、事業者の一つである株式会社オンチップ・バイオテクノロジーズは、バイオものづくりのフローの中で上流に位置する「有用な微生物や細胞の探索」を効率的に行うための装置を開発しています。木下は同社の担当者ときめ細かく連絡を取りあって技術開発の進捗状況を把握し、もし困っていることがあれば必要な措置を取ります。同社の担当者の間では「最近、木下さんは笑顔が増えた」と話題だとか。木下自身も「配属当初はとても緊張していましたが、だんだん全体像が見え、どこを頑張ればいいのかわかってきて、仕事を楽しめるようになりました」と振り返ります。
プロジェクトの終了が2026年度末に迫る中、木下は「オンチップ・バイオテクノロジーズさんの装置だけでなく、大規模培養でもぐんぐん生産物を作る菌を作るための情報技術、AIを活用した人に依存しない培養技術など、様々な基盤技術が開発されてきています」と自信をのぞかせます。
その一方で、プロジェクト終了後を見据えた仕掛け作りも始めています。具体的には、開発した基盤技術が産業視点でどれだけ有用なのかを確かめるために、ユーザー企業による検証の機会や技術のPRの場を作ったり、バイオものづくり人材の育成体制や、プロジェクト終了後も自立的にユーザーに技術を提供できる場を構築したりすることで、プロジェクトで開発した基盤技術が産業に貢献する仕組み作りを進めています。
「予算がつかなかったり、開発がうまくいかなかったりすることもありますが、これほどインパクトのある開発を支援できる仕事はなかなかないと思います。近い将来、このプロジェクトで開発された技術が実用化されれば、バイオ分野に新規参入できる企業が増えて、この分野への投資の拡大につながると期待しています」と木下。プロジェクトの成果が世界を変えようとする頃、木下は別のプロジェクトでそのマネジメント能力を発揮しているのか、それとも全く違う部署に配属されているのかわかりませんが、生き生きと活躍していることは間違いなさそうです。
※掲載内容は取材当時のものです。